倫敦塔の真下、照る外灯に寄り添うように彼は立っていた。一目見た瞬間、この国の者ではないと悟る。漆黒の髪と瞳、携えられた剣……いや刀か。変わった形状の赤いバンダナと、これもまた漆黒の奇特な服装に身を包み、彼は立っていたのだ。いや、立っているのだろうか。いくら目を凝らしても足が見えない。もしや――と苦手な部類の知識領域に足を踏み込ませる。彼はこの国の者どころか、この世の者ではないのではないだろうか。普段ならばこのようなふざけた思考には決してたどり着かない。しかし今はこの考えを裏付けることすら可能な程の光景が広がっている。彼は、息を呑むほどに美しかったのだ。この世にこのような男がいるとは、私は今日で初めて知った。凛とした瞳は私の胸を否応なく震わせる。彼の周りにはピンク色の花びらのようなものが落ちていた。確か、サクラという花だっただろうか。何処かの国では慣れ親しまれている花だというが、私は植物の類いに明るくはなかった。言葉を忘れただ立ち竦んでいると、彼はその唇を緩慢に開く。
「失礼。貴公は中央刑事裁判所所属の××殿に相違ございませんか」
「ああ、ええ。その通りです」
明らかに自らよりも若い青年に対し、つい敬語を使ってしまう。そう言った気迫が彼にはあった。堂々と胸を張り、迷いとも後悔とも無縁の人生を送ってきたかのような佇まいをしている。そして、そんな自分に相応の誇りを抱いている。…会って数刻でも、そんな事まで分かってしまう。


このあといろいろあってモブが霊亜双義に呪い殺されるんですけどフツーに飽きました…