「おまえはカッコいいなあ」
そう言って酒に溶かされた眼差しはゆるく蕩けた。ふにゃりと歪む口角は、男の中の愉快を効果的に魅せている。カッコいい、か。この男はよくこの言葉を使う。オレに向かって珍しく真っ直ぐに瞳でこちらを刺して、まるでお決まりの言葉のように。その大きな目はいつもあまりにもきらきらと輝いているので、少しむず痒くなる。
「どこを格好いいと思うんだ」
酒を口に流し込みながらそう問う。そうだなあ、と夢心地を音にしたような声で成歩堂は言葉を紡いだ。
「いつも真っ直ぐに前を向いていて、信念が曲がらないところだなあ。あと、いつもひとを信じてくれる。この前の裁判だって、ぼくを信じつづけてくれたものな」
その節は世話になったよ、とだらりと頭を垂れてみせられる。裁判というのは、成歩堂が見事無罪判決を勝ち取ったあの裁判だ。オレは成歩堂の隣に立ち、助言役としてそこに参加していた。しかしあの時オレがコイツの世話をしたのはほんの序盤のみに過ぎない。コイツはあの法廷で、自らの可能性を存分に引き出した。真実だけに目を据え、すべての事柄を正確に吟味し、どんな小さな事も何一つ見逃しはしなかった。途中からひと時もこの男から目を逸らせなかったことを思い出す。あれが、圧倒される、ということなのだろう。あの時の成歩堂龍ノ介こそまさに、自身の言う「格好いい」という概念に合致しているのではないか。そう感じた。
「その言葉、キサマにもよく似合うぞ」
おあつらえ向きに酒も入っていることだ。素直にそう言ってやると、成歩堂はきょとんとした表情でオレを見つめた。そしてそのまま首をかしげてみせる。
「え。……どの言葉?」
「……数分前の自分の言葉も忘れたか、キサマ」
「ううん……。まあいいや。もう一杯飲もう」
融けた笑みを浮かべ、成歩堂はまた酒を注いだ。まあいいや、ではない。まず話をまったく聞いていないようだった。嘆息をひとつ洩らし、オレもちびりと酒を呷る。酔いの抜けた時にでもまた言ってやろう。不思議そうに瞳を丸めるその表情が、すでにはっきりと頭に浮かんでいる。