※亜葬儀と弔いのすけまとめ
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土を掘る。ぼくはひたすら土を掘っている。もう深さはぼくの半身以上程までになり、落とし穴と呼称しても充分なものにはなっていた。人ならばひとりくらいは埋められる。なら誰を選ぶ?…人ひとり包める大きさの風呂敷を、と頼んだ時の店主の顔色、あれには肝が冷えた。ぼくはゆっくりと風呂敷を解く。
(土葬義)

火が燃えている。バチバチと激しく弾ける音がする。時たま火花が頬にかすった。この世のことを仏教では火宅と呼ぶらしい。よく言ったものだ。燃える家で微笑む男。おまえはぼくの家だった。木や紙や刀や腕章を火に放り投げる。中はどうなっているだろうか。暴れる火を見つめながら、じっと待っている。
(火葬義)

水面に不釣り合いに浮かんだ黒は、みるみるうちに底へと飲み込まれていった。まるで魔物だ。慣れ親しんだあの体が魔物に喰らわれていく。しかしすぐに水は平静を取り戻し、死などとはまるで縁がないとでも言いたげに穏やかな顔をひとつした。鉤裂きすらない、平らな藍色。波立っているのはぼくだけだ。
(水葬義)

最初は声から忘れた。そこからの瓦解はあまりに早かった。おまえはどんな顔をして笑っていたのだったか。どんな声でぼくの名前を呼び、どうやってぼくを信じていたのだったか。むきだしの記憶が風にさらされ、おまえがおまえではなくなっていく。ああ笑ってくれもう一度、風にすべて奪われていく前に。
(風葬義)

今頃ぼくにはどんな罪がかけられているのだろう。密航に死体の持ち出し、ああもう倫敦だなんて夢物語だな。雑草を踏みしめながら森を進む。名前のわからない虫や花が皆、ぼくらを見ている。けれどここを越えさえすれば誰にも見られやしないさ。大丈夫、今までもこれからもぼくらは二人きりだ、亜双義。
(密葬義)

「ほら、これ。"写真"が撮れる機械なんだって。随分おおげさだよな、ハハ。ホームズさんに譲ってもらったから好きに使えるよ。そうだな、じゃあ初めから撮ってみよう。あれ、操作がムズカシイな…。…ああ、これでいいみたいだ。待たせてゴメン、うん、じゃあまずは一枚。…よし、葬儀を続けようか」
(回葬義)

青々と茂る草木に生命を感じ取る。もうこんなに育ったのか。あの頃は、まだここには何もなかったのにな。すっかり皺だらけになった自らの手を見つめ、口角を緩める。生い茂る草も懸命に立つ小さな木も、おまえによく似ているよ。緑の意志たちは柔らかい日差しの中で、ぼくの五十年をそっと撫でた。
(樹木葬義)

「オレの葬式にキサマがどんな顔で出るのか見てみたい」と、思いきり悪趣味な事を友人はのたまうのだった。本気で怒ろうかと思ったが、すがめたその顔はとてもまじめで、ぼくは開きかけた口を閉じる。「もし、何らかの理由で倫敦でオレが命を落とした場合」「やめろよ」「キサマはオレの葬式には」「亜双義」遮った言葉の先で、親友は悲痛に微笑むのだ。…有りもしない与太話の為に、何故ぼくは胸を痛ませているのか。「だから、今からここは葬儀場だ」成歩堂、今から二人でオレの葬式をしよう。そう言って亜双義は笑うのである。ああいやだ、目眩がする。
(生前葬義)

この花を見た瞬間、真っ先におまえの顔が頭に浮かんだ。赤くて美しい、けれど毒があるんだな。たくさんのそれを親友の尊顔の周りに敷き詰めていく。花なんてほとんど知らないけれど、この花の名前は覚えた。ヒガンバナ、って言うんだってな。いい名前だろう、亜双義。なあ、…亜双義、きれいだ。……。
(花葬義)