ホームズが言うには、アイリスは怖いらしい。それも凄く。大の大人がそこまでただの子供を怖がるっていうことに、アタシはすごく興味をひかれた。
「どこが怖いの」
「目かな」
目が怖い。ホームズは繰り返す。アタシは少し嬉しかった。子供が大人を怖がらせている。子供が大人の優位に立っている。その事実が、アタシを少しだけ勇気づけた。そして同時にひとつ気づいた。アタシはアイリスの目をじっくり見たことがないかもしれない。向こうがじろじろ見てくるから、つい逸らしてしまうんだ。ああ、アイリスはいったいどんな目をしていたっけ。

「ジーナちゃん、会いたかったの」
裁判後、そっちやあっちでいろんなことをしなくちゃならなくてなんだかんだと忙しかった。今目の前にいるアイリスをちょっとだけなつかしく感じたりするくらいには、全然会えてなかった。いや、べつに会わなくたっていいんだけど。さみしくは、なかったけど。
「ジーナちゃん」
会いたかったの。また、アイリスは言う。なんて言えばいいかわからなくて、ふうん、とだけしか返せなかった。アイリスはにっこりと笑っている。ああ、そうだ、目だ。ホームズが怖がるアイリスの目。それを見てみなきゃ。アタシの勇気のために。
そう思ってアイリスの目を見ようとした瞬間、アイリスがこっちに猛スピードで走り寄ってきた。ぎょっとしている間に、避ける間もなく抱きつかれる。そのままアイリスの精いっぱいの力を込められて、身動きができなくなってしまった。胸に顔を埋められるみたいな形になってしまって、アイリス、って名前を呼んでも、なかなか顔をあげてくれない。どうしちゃったんだろう。アタシは今どうすればいいんだろう?困ってしまう。
アタシが固まっていると、アイリスはようやく顔を上げてくれた。いつもの笑顔がそこにはある。けど、目は。少し違っていた。
「ジーナちゃんは?」
「ジーナちゃんは、あたしに会いたくなかった?」
じっとアタシを見つめるその目は、アタシの表面だけじゃなくて裏側まで見つめるみたいに、光っていた。たとえみたいだけどそうじゃない、本当に光っている。外灯なんかと比べられないくらい、はっきりと。
アタシの奥はきっともう見抜かれていた。隠し事はできない。そんな道は残っていない。アタシはアイリスの目から視線を逸らせないまま、そおっと口を開いた。
「会い、たか……った」
「……そっか!」
うれしい、なんて無邪気に喜ぶ女の子。あのときのホームズの言葉や表情が次々に頭に浮かぶ。怖い。何が怖いの?目かな。目が怖い。ふうん。……アタシは実感した。アイリスの目は怖い。そしてきれいなんだ。だから捕まったらもう目が離せない。アタシたち、牢屋に入れられたのと同じようなものなんじゃない?
「ジーナちゃん、どこにも行かないでね」


アイリスちゃんの目は魔性やね〜という話です