指先から絡め捕られたのは確実に体温だけではなかった。心臓の芯のあたりに住み着いていた獰猛な獣のうなり声を、きっとこの男は聞いたのだ。……聞いてしまったのだ。その瞳は真っ直ぐにオレを見ている。見るな、と口にするのも憚られるほど、直線を引いている。
「ぼく、観察眼だけは自信があるんだ」
常より少し早口にそう呟く。そんなことはとうに知っていた。あの裁判で見せつけられたばかりだ。オレの思考すら軽々と飛び越えて、その目はすべてを視ていた。あの場の人間は、記憶によって成歩堂龍ノ介に視られていた。燃えるまなざしはいったい何人を焼いたのだろうか。
「亜双義、おまえ」
絡んだ指に強く力が込められる。頬がうす赤く染まっている。額に少し汗が滲んでいた。その先を言うなと言って、止めることも簡単だった。ここで引き戻り、また親友として何食わぬ顔で付き合っていくこともあまりに簡単だった。今ならまだ戻ることができる。さあ、どうする。そう自分に言い聞かせた結果、……オレは口を閉ざしていた。
「ぼくのことが好きなんだろう」


お題「暴かれた冬」でした