まだそんなに仲良くない期
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「お前は朝が弱いのか」
「…! ご、ごめんなさい」
「ああ、いや、謝らなくても…いい。いいが」
「…?」
「遅刻なんかは、普段よく…しているのか?」
「……た、たまにだけど、……何回か」
「そう、か」
委縮する弟の旋毛を見下ろしながら、自分は弟のことを何も見ていなかったという事実に改めて責め立てられた。いつも俺は朝、弟の目覚めなんて待たずに出勤している。だから日々の弟の遅刻はおろか起床時間さえあやふやという体たらくだ。ルドガーは今までずっと一人で朝を迎え、時に寝過ごしてしまっていたのだろう。どれだけ寂しく心細かったか。まだ幼いこの子を起こしてあげられる家族は俺しかいないのに、俺はその役割を放棄していた。最低だ。
「ルドガー」
「ご、ごめんなさい!こんなこともできなくて…」
「…いや、怒ってるんじゃないんだ。ただ、その」
「……?」
「これからは、朝は俺が、起こしに…」
そこで、はたと言葉が詰まった。「これからは朝は俺が起こしに行ってやる」。俺は今からそう告げようとしていたわけではあるが、「行ってやる」という言葉にルドガー殊更委縮してしまう可能性はないだろうか?…大いに有り得る。そんなことはいいと拒否されてしまいそうだ。では言い方を変えてみるとして、どう言えば気を遣わせずに承諾に持ち込めるのか?「行ってやってもいい」…駄目だ悪化した。「行ってやろうか」…無難か?しかしさっきと大して変わりがない気がする。ここはもう少し強引でもいいのではないか。
「…兄さん?」
俺の沈黙の長さを不可解に思ったのか、ルドガーが不安気にこちらの様子を窺った。また怯えさせてしまったのか、俺は。これ以上の沈黙はタブーだ。早く安心させてやりたくて、ついに頭に浮かんだ言葉をそのまま形にした。
「これからは俺が起こしに行く」
「…えっ」
言ってしまった。よりにもよってなんて横暴な台詞なんだ。まるでルドガーに選択権はないと言っているようじゃないか。現にルドガーは眉を下げ、困惑を露わにしている。服の裾を掴む力は弱くはなさそうだった。本当に何をしているんだ、俺は」
「いやなら断ってもいいんだぞ」
「い、いやじゃない!ちっともいやじゃない、けど」
「…けど?」
「その、迷惑なんじゃ…」