殴るのは、蹴るのは、噛みつくのは、引っ掻くのは、いつもあたしだけだった。痣ができて血が出て傷跡ができるのは、いつもさやかだった。喧嘩をするたび、沸点の低いあたしはすぐに手が出て足が出て、さやかをぼろぼろにしてしまう。それでもさやかは怒鳴ったりするだけで、あたしを傷つけることは絶対にしなかった。どうしてかとこの間訊いてみたら、杏子には傷が残っちゃうでしょ、だって。あんたの肌はまあまあ白くて綺麗なんだから、怪我残したりはしないよ、だって。魔力のおかげですぐに怪我が治るから、そんなことを言ってるんだ、さやかは。いくら魔法が傷を全部治してくれるからって、心はどうにもならないのに。あたしが体につけた傷の分は、きっとそのままさやかの心に傷跡を残してる。治ったなんて嘘なんだ。自分がたまらなく嫌になって、許せない。