「抱いてくれないか」

自室。勉強会という名のAV鑑賞会。いま俺はそういった憩いの場で、ものすごく唐突に唯一無二の大親友である男にこう言われてしまった。ウホッ、つってね、即座にそういうネタが頭の中で暴れ回る。しかしそれもこいつの今にも決壊しそうな目の内のダムを見ることによって静まり返りかけた。例によって目の前のこの男はガタイがよくてイケメンというか男前の部類で、つまりいい男だ。つまり、つまりどういうこと?俺は今からこいつに掘られてしまうの?ずっと大親友だと思っていたこいつは俺のことをそういう、くそみそな目で見ていたの?いやしかしこの思考は早計にも程がある。これは冗談だという可能性も十二分にあるのだ。普段こいつこういう冗談だいっきらいだから無闇に本気だと信じ込んでしまったが、こいつもそういうネタに寛容になったのかもしれない。いや、きっとそうだ。そうだよね神様!人生で一番信心深くなった俺は祈りをこめてちらと目前を見やる。その瞬間、俺の神は死んだ。俺の服の裾を控えめに、しかしいやに強く握り、頬を染め目を潤ませ乙女のように身じろいでいる。アウトだ。やけにケツがむずがゆくなってくる。もうだめ、俺のバージンは花とともに散るのね。は、入りましたっつってさ、ああ、次は――

「む、無理な頼みってのはわかってんだ。俺もお前も男だし、お、俺ゴツいし、かわいいとか、全然…。抱いてくれとか、キモいよな、うん、キモい」
「な、中本」
「ごめんな」

いや、聞いてて気がついたのだが、そういやこいつ俺を掘るだとかではなく「抱いてくれ」と言っているのだ。抱く、…抱く?誰が誰を?中本の腕の筋肉が目に入る。俺は実はずっと中本の体を尊敬していたのだ。うわーすげー強そうだな、と。俺もああなりたい、と。それを、俺に抱けと言う。しばらく脳に最大の仕事をさせて、あれとかそれとかを、もうものすごく考えた。長い沈黙が部屋を支配し、その静寂は俺が部屋のドアを開ける音で打ち切られた。トイレに行く。吐いた。そりゃもうゲーゲーと。想像だけで、俺の中の嫌悪という嫌悪が総動員してしまったのだ。中本はまだ部屋で俺を待っている。戻らなければ。けれど俺は便器から離れられない。すこし涙がでた。ごめんな、なんて言う資格さえ俺にはないような気がする。