「君みたいな奴が一番嫌いだよ。なんでもひょいひょいできるようになっちまってさ、ほかの奴らの羨望とか素知らぬ顔でスルーして、どんどん高いとこに登っていきやがる。僕が100億倍かけてやった血のにじむような努力なんて、お前からしたら一晩でできる趣味みたいなもんなんだろ?八つ裂きにしてやりたいよ、そのスカした顔。無駄に整ったツラしやがってさ。女もよりどりみどりって感じ?あ、でも君男にも興味あるんだっけ。河原のやつ見たよー。お友達の人生狂わせちゃってどうすんのさ。ははは、最低だね。しかも今だって、男の僕のこと必死に追いかけてきてさ。もうあなたしかいないんです!とか、何それキッモ。バカじゃないの?頭大丈夫?最後の最後でよりにもよって僕を選んじゃうって、本当になんにも考えてない証拠だよね。あーあ。もっと楽しいこといっぱいできたよ、君のスペックなら。顔は小奇麗だし、勉強もできるんだよね?あとみんなに好かれてモテモテみたいだし。全部棒に振るなんてもったいないなあ。なんなら僕に君の持ってるもの全部譲ってよ。……いや、やっぱいいや。君の顔なんて譲ってもらった日には気色悪くて発狂しちまう。鏡見るたびに吐くことは間違いないよね。さて、君はいま一人だ。もう僕しかいないって、確かにそう言ったもんなあ、君。うーん、どうしようか。今ここで殺してやってもいいけど、ねえ?そんなことしたらゲームが醒める。そうだよ、ゲームが醒めちまうのさ。だったら、ねえ、何すればいいかさ。わかるよね?」
そう言って足立さんは俺に銃を手渡した。撃てというのだ。この俺に、足立さんを、撃てというのだ!
「一人になれよ」
「自分で選んで、一人になれ」
「そうすれば僕は君のことを愛してやる」
「大丈夫だよ、昔に戻るだけなんだから」
足立さんは俺に持たせた銃を撫でる。優しさを取り繕うような手つきだ。怖い。どうしたらいいのかわからない。撃ちたくない。
「無理です」
「あ?」
「俺には撃てません」
「……へえ」
そうなんだ。つまらなさそうに吐き捨てられる。ああ、飽きてきているんだ。このままなら逃げきれるかもしれない。足立さんの興味を俺から失わせれば、この怖ろしい余興は中断されて俺は人殺しなんかにならなくてもよくなる。でも、飽きられてしまうだなんて、見捨てられてしまうだなんて、いやだ!そんなこと耐えられない!だって俺は一人なのに、足立さんがいなければ誰も傍にいてくれはしないのに。そうだ、足立さんが俺を記憶にとどめて死んでくれるというなら、結果が同じでもよっぽどマシだ。
「足立さん」
「お、やる気になった」
「足立さん!」
「うんうん、いいね。その調子」
足立さんのほうに銃を向ける。俺はずっと一人だった。やっとできた仲間も、失ってしまった。けれどあなたさえいてくれれば一人ではない。あなたは俺のすべてだ。
「愛してるんです」
「ふうん」
「本当です」
「いいって、そういうの」
「……はい」
冷えた汗が俺の背中を流れる中、足立さんは死んだ。俺はまた一人になってしまったが、足立さんの記憶の中に俺は残り続けたはずだから、その中の俺は一人じゃない。俺は一人じゃない。けど、でも、あれ、周りに誰もいないではないか。
「……どうしよう」