さて装備しましたるはこのハイレグアーマー。うーん、布面積がとても少ない。かなり羞恥心が煽られるうえに防御力ももちろん高いわけじゃないこの一品、いちおう装備した理由はあるけれど、それにしても恥ずかしいものだった。タルタロス内だから自分の姿が確認できないけど、他人から見たらいったいどうなっていることやら。ていうかこれで戦闘なんかしたら隙ありまくりではないのだろうか、お腹とかその他とか。
「…うわっ!」
二重の意味でお腹回りを気にしていると、後ろからすっとんきょうな声がした。振り返ると、そこには目を剥かんばかりに見開いた待ち人の姿が。
「順平、遅いよ」
「いやいちおう急いで来たっ……つーか……なに……?」
「なにってなに」
「いやオマ……えー……?」
順平はあちこちに視線をさまよわせ、一度こっちを見たかと思えばものすごい勢いで首を曲げた。耳まで真っ赤になった顔を隠すためかキャップのつばを掴んでいつもよりそれを深くかぶろうとしている。なんだかこっちまで照れてくるからやめてほしかった。
「どうせ見るならがっつり見てよ、こっちまで余計に恥ずかしくなるから」
「できるわきゃねーだろ!」
「あのね、見てるそっちより着てるこっちのほうが恥ずかしいんだよ?」
「じゃあ着んなよ!」
ツッコミにキレがない。本気で動揺しているようだった。ちょっと面白くなって一歩詰め寄ってみると向こうは一歩後ずさる。もう一歩詰め寄ると次は顔を両手で覆ってしまった。変に乙女チックだなあ。
「……つかなんでそんなん着てんの?」
順平は、はあと大きなため息をついたあと、まず一番に尋ねるべきであろう質問を今に持ってくる。今度はこっちが嘆息する番だった。なんだよ、と手の隙間から瞳を覗かせた向こうが訊いてくる。
「順平、言ってたでしょう。これ着てくれって」
「……は?」
確かに順平は言っていた。この装備を入手した時、苦笑を禁じ得なかった私たちに「うっはやべー、次のタルタルのとき着てくれよ」と。そして鼻の下を伸ばしながらのそれに怒ったゆかりにひっぱたかれていた。まああれからだいぶ経ってしまってはいるが、何故か私はそれを克明に覚えていたのだ。それらを順平に話すと、順平は困ったように眉を下げて赤い顔のまま否定の意で両手をぶんぶんと振った。もちろん視線は別方向に逸らされている。
「いやいやいや、あんなんその場のノリっつか、まさか本当に着てくれるとか思ってなかったっつーか……」
つまり、とか、その、とか、煮え切らない言葉たちがぼそぼそと紡がれていく。つまり?と促すと、さらに困った顔をした順平はああもう、と叫んで勢いよく私のほうを向いた。
「とにかく!気持ちはありがてーけど他のヤツが来る前にまともな服着ろよ!オマエも恥ずかしいんだろ!」
「いや、今日は順平以外は来ないよ」
順平の動きが止まった。瞬き以外の動きがなくて面白い。しかし手持ちぶさたなので順平をただじっと見つめていると、順平はすぐにハッと我に返り首を傾げた。
「……なんで?」
「いやあ、だってこの格好大勢に見られるのはかなり恥ずかしいし。だから今日は二人っきりなんだけど」
「……なんなの?アナタはいったい何がしたいの?」
呆れられはじめたのか本当に困っているのか、順平の声のトーンがだんだんと落ちていく。さすがに痴女だとかなんだとか勘違いされるのは悲しいので、少し真面目な調子で私はそっと口を開いた。
「いつもね、順平には本当にお世話になってるからさ。せめてものお返しとしてなにか喜んでもらえること、順平が望んでたことをしたいなって思ったんだ。それで前言ってたことを思い出して、これくらいで喜んでくれるなら、って。まあ、思いついたのがこれだけっていうのは自分でもどうかと思うけど……。あとこの服で実際どれだけの防御性があるのか確かめたかったけどみんなに見られるのはちょっと恥ずかしいから、順平にだけでもアドバイスもらいたかったっていうのもあったりするかな。……急にごめんね、驚いたでしょう」
「……」
順平は私に合わせて真面目な顔で聞いてくれていた。話が終わると、しばらくの沈黙が訪れる。あー、なんだか自分勝手なことをしてしまっている。申し訳ないなあ、順平だって忙しいのに。
どこに視線を向ければいいかわからなくなって俯くと、それとほぼ同時に順平が「あー」と大きな声をあげた。見ると、そっぽを向いた順平が複雑そうな顔でキャップ越しに頭を掻いている。
「オマエってなんか微妙にずれてるとこあるっつーかさあ……なんなんだよもー」
言うと、順平は目を細めながら私の瞳を正面から見てくれた。そして一言。
「べつにいいっつの。むしろ役得?感謝?みたいな?」
「ほんと?」
「ホントホント。嬉しいよ。オマエそれ超似合ってるし」
「……ふふ、ありがとう」
やっぱり順平は優しい。いつも私の突飛な身勝手をふわりと受け止めてくれる。たまに拒絶されたとしても、すぐに謝ってくれる。今日順平を誘ってよかったな、なんて心から思ってしまった。
「やっぱり順平でよかった」
と、それがぽろりと口に出てしまった。まあいいか順平だし。そう考えて少し笑うと、順平は眉間に皺を寄せて顔をまたほんのりと赤くした。しかしその後誤魔化すようにごほんと咳払いをする。
「……えーと、じゃーまあ率直にアドバイスさせてもらうけど、それ戦闘にはあんま向いてないと思うぜ。隙多いだろ。最近敵も強くなってきてるし……オレ…いや、オレら男性陣も戦いに集中できねーかもしんねえし」
「うん、まあやっぱりそうだよね」
「……あと、夜中にそんなカッコで誰も来ないトコに男呼ぶとかそういうのさ……こ、今後はやめとけよ。変なコトされるかもだし……」
「……順平にそんなことする勇気ないでしょ?」
「……そう言われるのも微妙なんスけどね……まあしねえけど?つうかそれだから順平でよかったってか……?」
「8割方は」
「オマエけっこうヒドイよな?」
がやがやと騒ぎながらも影時間は過ぎていった。最後には「今日のことは二人だけの秘密」だなんて言って大笑いしながら寮に帰ったけど、その響きにすこしわくわくしたのは私だけの内緒事だ。ちなみに例の服はたぶんもう着ないけれど、また二人きりのときがあればたまに着たりしていいかもね、なんて考えていることを順平に伝えてしまおうかどうか私はあれからずいぶん逡巡している。たぶん、伝えられないだろうな。



書いてる途中でお手上げ侍した感丸出し
ハム子ハイレグアーマーで話しかけた時の順平の反応にグッときて書いたけど後から男はテンプレ反応ってことを知った〜涙 でも萌える
あっ友情です 友情です!!!!!!!!!(震え声)