※死ネタ
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海の底には何があるのかな。もう泳ぐことさえできない体を水に投げ出しながら思う。魚はいっぱいいるだろうな。あと、冷たくて寒いのかしら。…鎮守府はいつも暖かかったから、すこし堪えるかもしれないわね。ああ、なんだか焦げ臭い。装備もぼろぼろだし、身だしなみも何もあったもんじゃないわね。みっともないったらありゃしない。
「曙!」
「待ってろ、そこを動くなよ!」
「絶対助けてやるから!」
遠くであたしを呼ぶやかましい声が聞こえる。耳慣れたそれはバカみたいに上擦っていて、さらにすこし涙に濡れていた。なんて声出してるのよ、あなたクソなりにも提督なんじゃないの? いつもお相撲さんだなんだってからかってくるくせに、何真剣になってるのかしら。しかもあたしのこと呼び捨てにするなんて、100万年早いのよ。ああ、この体が動きさえすればその間抜けた顔拝んで悪口のひとつでもふっかけるのに。
海はどんどん荒く波をかき立てた。クソ提督の声が少しずつ小さくなっていく。早く帰ればいいのに。一緒に沈んだりなんてしたら目も当てられないじゃない。あなたにはまだ守るものがたくさんあるでしょう。
「提督、…もう帰りましょう」
「曙!おい、返事しろ!どこにいる!くそ、探知!なにしてんだ、早く探知しろ!」
「提督!」
話聞いてあげなさいよ、せっかくあの漣がふざけずに話してるのに。バカね、だからあんたってクソ提督なのよ。初めて会ったときからずっとそう、意気込んで鎮守府に来たあたしに対しての第一声が「どすこい」とか、どういうことかとびっくりしたもんよ。おかげで変に肩の力抜けちゃって困ったものだったわ。初めての出撃の時もよ。興奮と不安が混じった不思議な気持ちで夜中に月を見てたら、あんた隣にやってきて「明日帰ってきたらちゃんこ鍋食べよう」って。もう相撲ネタはいいのよ。ムードぶち壊しだったわ。あと、あたしと一緒に出撃した艦が沈んだとき、あんたは落ち込んだあたしの頭を撫でたわね。…そのときだけは、よけいな一言は言わなかったっけ。
全部懐かしい思い出だ。走馬燈にはふさわしいわね。いつだってクソ提督だったわ、あんたって。そのせいであたしいつも重荷を背負わなくて済んでた。あたしの記憶の中のあんたは、まるで神様みたいに優しい笑顔で微笑んでくれている。
「曙、曙!嫌だぞ、許さないからな!お前が傍にいないなんて、俺は……」
クソ提督の声が聞き取れないほど小さくなっていく。ついにさよならも言えなかった。けれどいま、あたしの傍には誰の死もない。みっともないところも誰にも見られない。これはこれでいい終わりかもしれない。あたしはあたしの記憶の中の、クソでヘタレで最悪で誰よりもかっこいいたくさんの神に感謝でもしながら海の底で暮らすことにするわ。…すこしだけ寂しいだなんて、柄じゃないよね。こんな気持ちになるのも全部あんたのせいだわ。ねえ、ちゃんと他にいい人を見つけなさいよね。
「愛してるわよ、クソ提督」


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曙「GOD'S and DEATH…」←タイトル
正直↑これが言いたかっただけである