「兄さん」


妙になまめかしい声色はまるで別人のそれのようで、15年も傍にいた弟のそれとはとうてい考えられなかった。けれど、現実は俺の思考どおりには動かない。ルドガーはこうしてきちんと俺の前にいて、俺に侮蔑にも似た薄紅色の感情をむき出しにしているのだ。いつもはユリウスと呼ぶくせに、今日に限って身内の血を濃く感じさせたがる。いつからそんなことをするように、いや、できるようになったのだろう、この子は。


「俺のこと好きなんだ」


確信の槍は容赦なく俺の胸をぐさりと突いた。拳を握りこみ、歯を噛みしめる。目の前の弟の目に映るのは、愉快だといわんばかりの快楽のようにも見えた。ああ気持ちが悪いと、吐き捨てようか迷っている。まるで手綱を握られているようだ。