「ごらんよ、あの空を。夕焼けによく似ているけど、あの空全体が隕石なんだ。みんな笑っているけど、みんなもうすぐいなくなるんだよ。君はそれでも僕のこと、愛してるだとか言えるのかい?」


足立さんはそう言いながら空を指さしたが、俺は空を一瞥すらしなかった。だって、今はそんなことより横にいる足立さんのことを見つめていたかったから。綺麗ですよと俺が言うと、彼は何か言い返そうとして、けれど口をつぐんでしまった。
菜々子が入院したんです。ああもうそんな時季か、ああもう何回目だって感じですよね。しかも陽介たちはついさっき生田目をテレビに落としました。俺、怖くなって、その場からすぐ逃げ出しちゃったんですよ。そう話す俺の声に、足立さんはただ耳を傾けているだけだった。ねえ足立さん、と俺は彼に問う。これっていったい何回目でしたっけ。覚えてます?


「88回目」


足立さんは抑揚のない声でぽつりとそう言った。88回目。そうなんですか。覚えていたんですね。俺は驚いて、それから悲しくて、次に感動した。