朝の木漏れ日が目に痛い。気だるい体をのそりと起こしベッドサイドに放り出していた眼鏡をかける。そこで自分がやけにベッドの端で寝ていたことに気づき、ちらりと隣を見やった。そこで、僕は昨夜の事態についてを一気に脳に蘇らせる。ああ、と漏れでた短い羞恥の具現化は静寂の部屋に反響し、この言いようもない息苦しさにさらなる磨きをかけるばかりだった。僕の隣で持ち主を差し置いてベッドの3分の2を占拠しているのは、兵部京介だ。昨晩、僕とこいつはなんとも不毛に体を重ねてしまった。もう数度目の話になるのだが毎度の朝の辛さは回を重ねるごとに増してきている気がする。自責の念や、チルドレン達への言いようもない後ろめたさも同様にだ。はあと嘆息しまだかすかな寝息をたてて眠っている兵部を見下ろす。兵部はあまり見たことのない表情でただそこにいた。
朝起きて、兵部がまだここにいるのは滅多にないことだった。いつもは起きると隣はもぬけの殻で、温もりさえ残さず兵部は自分の場所に帰る。それが寂しいだなんて思ってはいないけれど、ベッドの端に寄って一人で横たわっていると、なんだかやけに焦りが募った。だけど今日は兵部がいる。これはこれで、勘は狂う。今もなお眠る兵部の顔に視線を与えながら、どうしてこいつは僕と寝るのだろうと今更なことをぽつぽつと考えた。こいつは僕が大嫌いで、僕だってこいつのことを少なくとも好きだなんて気持ちで接してはいない。けれど、こいつは僕にキスをして、ベッドに僕を押し倒した。それからも定期的に奴は僕の部屋を訪れて、僕の理性をなし崩していく。最初はこの行為によってまた何かを仕掛けられたのかと思ったが、今のところ特にそういった仕掛けや変化は僕の体に現れていない。かといって目的もなくこんなことをしているとはとうてい思えなかった。兵部はいったい僕に何をしようとしているのか。そして、僕はなぜこれを拒めないのか。数度に渡る不本意な密会を重ねられても、いまだに糸口はつかめそうもない。まさか兵部は、…だなんて考えそうになってしまう自分が、今は何よりも腹立たしかった。

「朝から面倒くさいこと考えてるんだな、皆本クン」
「兵部、起きたのか」
「少し前にな。夜明け前には帰るつもりだったのに、寝過ごすとは屈辱だよ。やっぱり僕ももう若くないな」

兵部は眉間にしわを寄せ、僕を睨みつけながらもそんな軽口を叩く。そしてのそりとベッドから起き上がり、空間テレポートを使って瞬時に服を着た。もう帰るつもりらしい。相変わらずの淡泊な事後に、僕はなんだか少しだけ安心してしまった。しかしECMを作動しておけばよかっただなんて頭の隅で考えているあたり、我ながらどうかしていると、思う。


「…その、大丈夫か?腰とか」
「別になんともない」
「でもお前老体だし、腰痛が悪化したりとか」
「誰が腰痛持ちだ」