「どうしても好きだった。だからもう会えなくてもいいと思ったんだ」

いつだって俺の胸を刺す柔らかくて優しいしろのひかり。忘れたことは一度もなかった。ゆらゆら火照るアスファルトの上で笑う金色の魚の、地上に降りた太陽みたいなあの笑顔。肩に背負われた好きが伸ばす影と、路面を滑るパステルカラーの水滴。かわいくて大切な恋の姿。あの夏はきっとこの先何年経っても美しい現在の原型を留めたままの思い出で、俺のすべてを使って輝き続けるのだろう。ハルのいた夏は、目に痛いくらいの極彩色だった。俺は悲しいくらいに素晴らしい恋を、あの灼熱で知ってしまったのだ。それでも未だ過去に成り得ない思い出は楽しい感情ばかりを記憶してるわけじゃない。苦しくて泣きたくて叫び出したくて死にたかった、生々しい苦痛だってちゃんとこの胸はリピートし続けている。ハルに対して芽生えた恋心は俺にとって劇的な素敵だったけれど、悲劇的な強敵でもあった。だって俺たちにはお互いへの理解も時間も何もかも足りなくて、何より俺は外の世界で見知らぬ他者から二人を異質と見定められたくなかった。俺はずっと怖かったんだ。だからハルが俺たちの箱庭を出て行くとき、実は9割のかなしみの底に1割の安堵が根付いていた。もう会えなくてもいい、会わないほうがいいかもしれないって。俺はしがらみから放たれるだなんて思っていた。