足←主←花
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「あのひとが俺を呼んでるんだ、行くしかないだろ」

選択肢なんかこれしか用意されてないだろう。相棒は言うのだった。果たしてそれは本当にそうなのか、なあ、リーダー?どうして俺がおまえをリーダーって呼ぶか、どうやらおまえはこれっぽっちも理解してなかったらしいな。はあ、とため息をつけばそれは白く逃げて雪を真似る。こんな形でおまえと雪なんか見たくねえよ、俺は。目を伏せてアスファルトを視界に据えるあいつはもう行っていいか、なんてまたふざけたことをぬかしやがるので、いいわけねーだろとその脆弱に揺れている灰色を強く睨んだ。ポケットに入れた両の手に無意識の力が加わる。

「なんで行くんだ」
「だから、呼ばれてるから」
「呼ばれてねえだろ」
「陽介にはわからない」
「何が」
「何もかも」

妙にイライラして変に悲しかった。理由はわかっているから余計に。だからってわけではないが、殊更にこいつをこのまま先へ向かわせるわけにはいかないと感じる。おまえの進む前はそっちじゃあない、だっておまえはリーダーで、ヒーローだ。俺たちはおまえにこれを押し付けたんじゃなく、ただ託した。都合のいい御託を並べ立ててるつもりは毛頭ない、これは俺たち全員の意思だし真実なんだよ。託すと押し付けるは同義じゃあない。俺たちはおまえを見殺しにする気なんてこれっぽっちもない。あいつと死にに行くのを黙って見送るなんてできるわけがないんだよ。だから俺は今こうしておまえを見つけて引き留めてる。わかってんだろ本当は。

「無自覚ほどたちの悪いものはない」
「は?」
「なあ陽介、それは罪だよ」

どういう意味だよ、と言おうとして、でも言葉が出てこなかった。あいつの貼り付けた笑顔が、もうなにもかもを捨ててもいいと言っているような、やっとここまで来たんだと叫んでいるようなそれに見えてしまったから。終わりをあいつはついにいま見出している。瞳だけまったく笑わないあいつが急にどこか俺の知っているあいつではないように思えて足が竦んだ。おまえおかしいよ。まだ何も終わってなんかないのに。

「おまえはただ、おかえりって言ってくれ。必ず帰ってくるから」
「…生きて帰ってくるんだろうな」
「わかるだろ、そんなの」

わかんねーよ。わかんねーから訊いてんだよ。そう言おうとして口を開いたが、何か恐ろしくなってすぐに閉口してしまった。あいつの口からこの先を訊いてしまってはいけないと本能が訴えかけるのだ。