「もし僕が死んじゃったらどうする?」

驚いたことがふたつあった。ひとつめは、ハルがそんな仮定論を持ち出してきたこと。もし〜ならなんて、そんなifの話をするようなやつではなかったはずだ、俺の友達は。もし、だなんてことを思い起こす脳がこいつに存在していただなんて考えもしていなかった。だからとても驚く。そしてふたつめは、ハルが死ぬ、ということ。僕が死んじゃったら、とハルは言った。言ったが、俺はその言葉の意味がまるっきり理解できない。だってハルは、俺の友達だろ?友達は友達の前から消えたりしないだろう。そうだ、宇宙人のハルが俺の手元から離れていってしまうのは必然的であるし仕方のないことだと諦めがつく、納得もできる。でも宇宙人とかそういうすべてを全部ひっくるめて今はただの友達である俺の中のハルは、ほぼ、いやきっと、確実に、絶対に、俺の傍から離れていくことなんてないだろう。死ぬ、という離別の仕方なんて念頭にも置けない、論外の話だ。ハルは絶対に死なないのだ。俺の友達でいる限り、死ぬことなんてない。友達とはそういうことなんだ。死ぬだなんていうもしもを話すのはなんとも馬鹿らしい。

「なに心配してんだよ、大丈夫だって」

だっておまえ、死なないじゃん。そう言ってハルの背をさすると、ハルはぴたりと動きを止めて俺をじっと見つめた。深海みたいな目だった。海の深くで死にかけている魚のような瞳がやけに俺の心を曇らせる。