俺はたった今、別れ話を切り出した。恋人の綺麗な青色が揺れて、薄い紫は困惑の色を含んでいる。こたつに腰まで体を預けて一世代前の野球ゲームをしている完全くつろぎスタイルな日向に突然こんな話をするのは少し躊躇いがあったが、今日じゃなくちゃダメだという俺の決心は揺らぐことはなかった。このまま言い出せないままずるずる続いていくこの関係性が、いいもののはずがない。少しの沈黙があってから、日向はコントローラーを弄る。ゲーム画面がポーズ状態になり、いったん動きを停止させた。どうやら、ちゃんと話を聞いてくれるらしい。上体を起こして俺の目を真っ直ぐと見つめる日向がまず最初に口走った一言は、言ってしまえば典型的なそれだった。

「なんで?」

まあ、そう言うだろうな。性別っていう大きな障害を乗り越えて、もう2年以上は愛し合ってきた。その愛はどれだけ月日が経っても色褪せたり変化したりすることはなかった。なのにいきなりこんな話されたら、そりゃあ訊くだろう。なんで、って。そして、人一倍繊細で自虐的なこいつのことだ。次にくる言葉だって、いとも簡単に想像がつく。

「俺、なんかした?」

ほら、自分のせいだと思いこむ。日向の瞳は、だんだんと不安に満ちてきているし。おまえのそういう救いようないとこ、けっこう嫌いじゃない。

「そういう、なんでも自分のせいだと思いこむところが気に入らない」

でも俺は嘘をつく。できるだけ傷つけて、できるだけ嫌われて。そうしないとこいつはきっと、俺と別れようとしない。いつまでも、なけなしの優しさを俺なんかに注ぎ続ける。そのせいでおまえに無理させるぐらいなら、俺はおまえに嫌われるよ。

「そう、か」

そうか、と呟いて、フローリングに視線を落として小さく頷く。無理やり納得しているような、飲みこめないものを無理に飲みこもうとしているような、そんな挙動だった。覚悟はしてたけれど、ああ俺は今なんて酷なことをしているのかという自覚が本格的に芽生えてくる。まるで自傷行為だ。

「いつもヘラヘラしてるところも、精神弱いところも、嫌いなんだ」


別れ話が書きたくて