抵抗を試みる両手の力はさすが傭兵だけあって煩わしいぐらい強い。20cmほどの身長差がある僕らだ、普通なら小さい僕の不利でアルヴィンの圧勝という結末に終わるだろう。しかし残念ながら、僕は人が触れられると弱い箇所に詳しい。とりあえず、とぎりぎり爪が食い込むほど力強く彼のそれと相対していた両手の右だけをさっと離し脇腹を突いた。彼は完全に油断していたという体で、うひゃだかなんだかよくわからない声をあげた。その際に力が弱まった瞬間を僕は逃さない。即座に彼の両手をシーツへと叩きつけるように押しつけた。一瞬顔を歪めたアルヴィンは、卑怯だろ、と年甲斐もなく怒っている。

「べつに正々堂々といこうとは言ってないよ」
「それでもおたく、こういうのには同意ってもんが必要で」
「同意ならさっきしてくれたでしょ」

はあ?なんて間抜けな声を出す口は手で塞いでしまった。必死に喋ろうとしているアルヴィンの息が手のひらにかかってちょっとくすぐったい。じたばたと暴れることをやめようとしない手と足をのしかかるように押さえつけておくのも少し疲れてきた。特に手なんかはいま片手で彼の両手を封じているわけだからかなり骨が折れる。僕は上体を前に倒してずいっとアルヴィンの顔に自らのそれを近づけた。鼻同士が触れるような距離に、アルヴィンの動きがぴたりと止まる。大人しくなった彼を前に、僕は薄い赤を見つめながら静かに呟いた。