「僕、誰かの役に立ちたいなあ。こんな地味な僕が活躍できたら、消えちゃってもいいかも」
大山はそんなことをよく言っていた。
それを聞くたびに俺は『じゃあ頑張って役に立てよ』と大山の背中をバシバシと叩いてたけど、本当は心の中でずっと叫んでたんだ。
『俺を残して消えないでくれ』って。

影との死闘から1日後。高松が元に戻って、俺達の思い残すことはほとんどなくなった。あるとすれば、ゆりっぺに直接礼を言えなかったことか。
まあ、つまり。
俺達は今から消える、ということだ。


松下五段、高松、TK、竹山、椎名、遊佐、みんな笑顔で消えていった。野田はどこかに用があるとか言ってそのまま去っていってしまった。
残ったのは、俺と大山。
みんなが消えたあと、中庭で何をするでもなく一緒にいた俺達は、晴れ渡った空を見上げて沈黙を守り続けていた。
いつもならこのへんで俺がバカなこと言って大山にツッコミを入れられるのだが、今はバカを言う気分にもなれない。

(何を言ったら、いいんだろうな)

口を開いたら、俺達は消えてしまうんじゃないか。もう少し、あと1分でも1秒でもいいからここにいたいと、未練ったらしい俺の心が訴えてくる。
ーーわかってるだろ?もう、さよならなんだ。
言い聞かせるように思ってみても、やっぱり口を開こうとは思えない。でも、言わないと。じゃあな、って。笑って言わないと。

「…そろそろ、僕たちも行かなきゃね」

急に、押し黙っていた大山がそう言った。いつもどおりの口調で、なんでもないように言い放つ。
でも、なんとなくわかった。大山はわざと普段どおりにしている。このままお互いが何か言わないと、俺たちはここから去ることができないって、そう思ってるんだろう。だから、自分から前に進もうとしたんだろう。
ーーああ、こいつも、変わったんだな。
いつも立ち止まっておろおろしてて、いっつも誰かについていってたような、そんな大山はもう立派に前に進めるようになったんだ。
それなのに俺が女々しく立ち止まっててどうする。