「例えばの話ですよ」

小さな唇が言葉に沿って動きを変える。至近距離故にジャーファルの息が首筋を這い、俺を擽った。膝の上に感じる重みは重みと言ってもいいのか戸惑うほど軽く、もしやちゃんと飯を食っていないのではと心配を仰ぐほどで、ジャーファルがそこに乗っている事実さえ下手をすれば忘れてしまいそうだ。ジャーファル、と小さく名を呼べば、黙っててくださいと何故か一喝された。せめてどうしていきなり紫獅塔を訪ねて来て、椅子に腰掛け読書を楽しんでいた俺の膝の上に腰を置いたのか、その訳ぐらいは聞かせてもらいたいのだが。迂闊に口を開くことはできなさそうだったので大人しくへの字形をキープする。こいつが本気で怒るとシンドリアの中で1、2を争うほど恐ろしいことを、俺は他の誰よりも知っていた。ジャーファルは俺を捕まえるような形で腕を腰に回し、肩に頭を置く。本当に小さい頭だ、ふとそんな感想が脳裏を掠めた。この角度からではジャーファルの表情は窺えず、怒っているのか泣いているのか、そんなことさえも隠されてしまっている。ああ、もどかしい。