お父さんが赤ちゃん返りした。いや、ほんとうはしてないんだけど。でも赤ちゃんみたいにわんわん泣いて、うわあんうわあんって、大きな声で泣いていて。生まれたての赤ちゃんってこんな感じなんだろうなあって、わたしは冷静に考えていた。今日はわたしの誕生日なのに、なんでそんなに泣いてるの、なにかあったの。そうきくと、おまえの誕生日だからだよ、とお父さんは声をふり絞った。わたしの誕生日は、かなしいの?ちがうよ、うれしいんだよ。そんなにうれしいの?うん、こんなにうれしいよ。そんな会話をしているあいだも、お父さんの涙はとまらなかった。部屋の隅でお母さんが笑っている。ほらみろ楓、お母さんもお誕生日おめでとうって、おまえがまたひとつ歳をとってうれしいって笑ってるよ。お父さんのやさしい声がきこえる。わたしはすこしだけわらって、お母さん、楓おおきくなったでしょ、って、4歳のときみたいに言った。成長したわたしをみて、おおきくなったねって、言ってほしかったなあ。そう言ったら、お父さんが、パパが、おおきくなったなあって言ってわらった。ママの分まで、パパが楓のためにいっぱいいっぱい喜ぶからな。って言ってわらった。そうだね、パパがいるんだよね。
「ねえパパ」
「どうした、楓」
「楓も、赤ちゃん返りしていい?」
「うん、いいよ、いいにきまってる、いっぱいなきなさい」
わたしはちょっとだけ赤ちゃんに戻った。赤ちゃんがふたり、わんわんわんわん泣いていた。