幸せだったかと訊けば幸せよと答えるような妻だった。ごめんと言えばありがとうのほうが嬉しいわと返すような妻だった。ありがとうなと言いながら泣くと笑顔が見たいなあと困った顔をするような妻だった。彼女はいつも気丈だった。俺なんかには勿体無いような妻だった。

「ねえ、いつまで泣いてるの」
「だって、おまえの寿命が、もう、残りちょっとだって先生が、さあ」
「宣告された本人より泣いててどうするの」
「な、なんで、なんでおま、そんな、笑ってんだよ」
「薄々わかってたのよ。あー私もう長くないなあって」
「そ、そんなん、そんなん、よお」
「ねえもう笑ってよ。そんな顔で楓に会ったら笑われちゃうわよ」