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晶馬と冠葉(輪ピン)

兄貴は気がつけば初恋を体験していたし気がつけばファーストキスを済ませていた。気がつけば女の人と恋愛的な付き合いを始めていたし、気がつけば、初めてのセックスだって、終えていた。僕がまだ大事に大事にとっている、否、怖くて捨てることができないものを兄貴はいとも簡単にその辺の女の人に捧げてしまったのだ。双子だっていうのに、僕らはどうしてこんなにも違ってしまったのか。生まれるのが数瞬遅かっただけなのに、僕はどうして冠葉と並べないのか。

「初体験について聞きたい?まあ構わんが…あれは確か、中学の頃だったなあ。相手は先生だった。下校中、教室に忘れ物をしたのを思い出して取りに戻ったら先生がいてな、そこで捕まってあれよあれよと言う間に童貞卒業だ。…しかし、まさか女のパンツを見ただけで真っ赤になるおまえにそんなことを聞かれる日がくるとはなあ」

おまえにもやっとそういうことへの耐性がついてきたみたいだな、とくつくつ笑う兄貴の顔はにやりと歪んでいて、非常に頭にくる。飄々としたこの性格は、僕とは似ても似つかなかい。
中学の頃に済ませていただなんて知りもしなかった。脳内で古ぼけた記憶の断片を手繰り寄せてみたけれど、兄貴が初体験をしたと見られる日に心当たりは一切ない。兄貴はいつもいつもにこりと変わらぬ笑みを湛えながら、僕と陽毬にただいまを告げていた。家の外で何があったって、僕らに見せるのは笑顔だけだった。どれだけのことを一人で背負い込んできたかなんて、僕には専ら見当もつかない。兄貴はどこまでも兄貴で、どんなときも僕らに辛さを垣間見せることさえしなかった。そんな兄貴に僕はいつだって敵わない。

「ねえ冠葉」
「どうした?晶馬」
「僕たちは双子なんだよね」
「…今日の晶馬はへんだな」

大きな腕に体をすっぽりと収められた。まるで子供にするように、冠葉はぽんぽんと一定のリズムで僕の背中を叩く。双子じゃなかったらなんだって言うんだ、と快活に告げる声が鼓膜に届いた。ああやっぱり僕はいつまで経っても弟で、兄貴にはかないっこないのだ。
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