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主花(P4)

「俺この歌好きだわ。だってみんなも好きだろ?」
そんな言葉を吐いてそんな思考を抱え込んでいた自分のことを、俺はまだ近い温度で感じている。人間すぐに変わるなんてことはそうそうないわけで、今だって俺はそれなりに人の顔色は窺う。だから、当時の自分を否定する気なんてのはさらさらない。孤立は怖い、当たり前だ。俺はその時、好きな曲があった。でもそれは明らかにマイナーで、きっと誰も知らないような代物だった。だから俺は、その歌が好きだなんて誰にも言ったことはなかった。カラオケで歌うだなんてもってのほかだった。孤立は怖いんだぜ。周りに合わせておけば、うまく生きられるんだぜ。いつの俺だって変わらなく俺だ。だからその思考だって、今も心のなかに確実に残っている。
ところが俺の相棒ときたら、そんなのなんにもお構いなしって顔で自分の好きな曲を聴きやがる。自分の好きなものを見ている。しかも、それが周りにすんなりと受け入れられている。とんでもない奴だと思う。
「好きだ、陽介。付き合わないか」
本当にとんでもない。自分の好きなものはきちんと好きで、それをへたに隠さない奴なのだ。しかしそれにしたってどうだろう、男であるお前がどうしてそこまで率直に、同じ男である俺に好きだと告げられる?臆さないにも程があるだろ。俺はいやだぜ。孤立は怖いぜ。後ろ指さされるのは、怖いぜ。
「ただ一緒にいるだけじゃ駄目なのかよ」
「俺ら男同士だぜ。もしバレたら、変な目で見られる。もしかしたら世間全部敵になっちまったりして」
「俺は、純粋に怖い」
率直なままに応えると、相棒は何故か不敵に笑った。訳わかんねえ。
「なら陽介、俺を世間から守ってくれ」
「……普通そこは「俺がお前を守ってやる」じゃねえの」
「守られるだけなんて嫌だろう。もちろんお前のことは俺が守る。お互い様、という精神でこれから頑張ってみないか」
「……マジで」
「マジだ」
とんでもねえなあ。突拍子もないし、際限もなさそうだし、うまくやっていける根拠もないのに。でもなんとかできてしまいそうな気もしてしまうのだから、こいつの言霊は本当に恐ろしい。誰とも合わない、非難だってされそうだし、決してうまく生きてるとは言えないこれからになるに違いはない。けど、人とはまったく違う道をお前となら大笑いしながら歩けそうな予感が、俺はしてしまった。きれいに言いくるめられちまったよなあ。

主足未完(P4)

「ごらんよ、あの空を。夕焼けによく似ているけど、あの空全体が隕石なんだ。みんな笑っているけど、みんなもうすぐいなくなるんだよ。君はそれでも僕のこと、愛してるだとか言えるのかい?」


足立さんはそう言いながら空を指さしたが、俺は空を一瞥すらしなかった。だって、今はそんなことより横にいる足立さんのことを見つめていたかったから。綺麗ですよと俺が言うと、彼は何か言い返そうとして、けれど口をつぐんでしまった。
菜々子が入院したんです。ああもうそんな時季か、ああもう何回目だって感じですよね。しかも陽介たちはついさっき生田目をテレビに落としました。俺、怖くなって、その場からすぐ逃げ出しちゃったんですよ。そう話す俺の声に、足立さんはただ耳を傾けているだけだった。ねえ足立さん、と俺は彼に問う。これっていったい何回目でしたっけ。覚えてます?


「88回目」


足立さんは抑揚のない声でぽつりとそう言った。88回目。そうなんですか。覚えていたんですね。俺は驚いて、それから悲しくて、次に感動した。

主足(P4)

あなたのその間の抜けた瞳が何を映しているのか俺は知っている。深淵の彼方、海底のさらに底、闇の中心部。あなたはそういうものをその瞳の中にうつしこんでいる。つまり何が映ってるかというと、何も映っていないということです。だってあなたは虚無なんだもの。見えるものに意味やなんて見いだすことはしないでしょう。そんなあなたの顔に貼り付けられている闇に、俺はよく映る。やあ、と片手をあげてこちらを見られるたび俺は闇にのまれている。恐ろしいけれど、逃げ道はない。俺は闇の中心部で、あなたに笑い返すしかないのだ。
ああ、暗闇に囚われ続けてすっかり目も慣れてきた。足立さんの闇に世界が映っている。それをみて俺はあなたの闇といっても過言ではないのかもしれないと思った。だってここはこんなにも居心地が良いのだから。


お題:闇の私

主足未完(P4)

「目が焼けそうだ」

足立さんはそう言って、俺を哀れむような目で見つめた。俺はなんだかひどく悲しかったが、それと同時に、残酷なほど嬉しかった。ああ、彼が俺を眩しそうな目で見つめている。

光を纏う病気にかかっていると医者に診断されたのは、夏のことだった。あなたは見る者すべての目を眩ますほどの異常な光を発していると、大病院の医者は言った。前例はもちろん、ない。世界で唯一俺だけが発症している奇病なんだそうだ。診断結果が読み続けられる間に俺は、ああ、だからみんな最近俺を眩しそうに見るのか、とやけに冷静に普段を振り返っていた。陽介も千枝も雪子も完二もりせも直斗も叔父さんも菜々子も、みんなみんな、俺を見て目を細める。俺がとても眩しいのだという。眩しそうなみんなを見ているうちに俺はすこしいい気分になんてなってしまって、こんな大勢の目を眩ますことができる自分はもしかしたらとんでもない存在なのではないかと勝手に過信してしまった。嬉しくて楽しくて、自分が眩しくない人など世界には誰もいないのだろうと心から思う日もあった。けれど、俺を眩しくないという人はすぐ身近に現れた。それが足立さんだ。足立さんは俺を視界に入れようが何をしようが、ふうんそれで、と言いたげな目をしてみせた。お前なんか眩しくもなんともないただのガキだと、彼の目は語った。ああ、俺は憤怒し、焦燥した。あのひとは俺をちゃんと見てしまうのかと。

即興二次小説に挑戦したものの寝落ちしてリタイアしたやつ
お題は「光の病気」でした

主足未完(P4)

拝啓 足立透様
前略
暑さも増してきましたこの頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。ますますご健勝のことと思います。
あなたがいなくなり幾らかの季節が私の上を通り過ぎて行きましたが、私の胸中は相も変わらずあなたの去ってしまった冬を忘れきれぬまま吹雪が吹き荒んでいます。あの冬はそこまでの豪雪ではありませんでしたっけ。まあ、そんなことはどうでも良いのです。あなたという一等に近接的な存在が欠如した悪夢のような12月の夜から、私は私を責め立てるような孤独感に苛まれつづけています。素晴らしくクソのように一人であるのです。
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