フレユリ(TOV)

ファーストストライク時代
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「だから君のそういうところが……」
「お前だって欠点のひとつやふたつあるだろ。いや、もっとあるな。ひとつずつ言っていってやろうか?」
「今はそんな話はしていないだろ」
「そういうキレたらデカい声で意見ぶつけてくるとこがまず欠点だな、お前の」
もはやいつもどおりといっても過言ではない言い争いは相変わらずユーリが優勢だった。二人とももういくらか大人になったしこういうことは少しずつ減っていくのかと思っていたが、むしろ衝突の機会は増すばかりだ。そして僕はいつもユーリに言い負かされ彼の勝ち誇った顔を目にするはめになるのだ。その性格を直すことはできないのか、と言い返しても彼はまったくこたえていない様子で皮肉っぽく笑ってみせる。
「諦めろよ、フレン。今日もお前の負けだ」
けっきょく今日も見てしまった、勝ち誇った彼の顔を。しかしまだ負けだと認めようとは思わない。何か突破口はないかと考えているうちにユーリの笑みはどんどんその色を深めていった。その表情を見ているとどんどん頭に血がのぼっていき、もはや意地のような状態で言葉を発する。
「そんな偉そうなことを言っているけど、君、初めての相手は僕だったくせに」
言った瞬間、それまでユーリの顔に浮かんでいた笑みがぱたりと消えた。完璧な静寂が二人のあいだに横たわる。……さて僕はいま何を言っただろうか。何かとてつもなく場にそぐわないことを言った気がする。場にそぐわないというか、内容があまりにもあんまりというか。ユーリは眉を寄せて何度か頭を掻き、小さくため息を吐きながら僕を睨んだ。
「それこそ今そんな話してねえだろ」
「……で、でも事実だろ」
「……つうかお前もだけどな、それは」
そういえばそうだった。放った台詞が時間差でブーメランの如く心臓に刺さる。次に来る猛攻を覚悟しながら彼の言葉を待った。だがなかなかその時は来ない。ふと彼の表情を見るとさっきと変わらず眉間に皺を寄せ不機嫌そうな顔をしていた。けれど微かに、本当に微かにその頬に朱が差している。ようやく呟いた一言も、「馬鹿じゃねえのか」ただそれだけだった。……ああ、もしかしたら僕はかなり有効な切り札を生み出したのではないだろうか。諸刃の剣、というにふさわしい代物だけれど。
「……もう寝ようか、今日は」
「……オレもすげー眠くなってきたわ」

フレユリ未完(TOV)

「お前が好きだ、キスもセックスも全部してえってもう何年も前から思ってる。よかったな、両想いだ。これで満足かよ」
僕に壁へと追い詰められ逃げ場をなくした友人は、そう言うとこの世の全てを憎むような瞳をこちらに向けてきた。なぜそんな態度を取るのかまったく理解できない。僕は彼が好きで、彼も僕を好きだ。ひとまずはこれだけで完結する話ではないのか。
「どうしてそんな顔をしているんだ。言葉にしてくれないとわからない」
「わからない?は、付き合いばっかり長くても何もわかりあえてねえってことだな、オレたちは」
「君が何をそんなに不満に思っているか見当もつかないんだ。君はいま何を考えているんだ、ユーリ」



もうちょっとフレンぴユーリのことわかってるかもなと思ったけどどうだろう わからない…

フレレイ未完(TOV)

「じゃあフレン君。この振り子じーっと見ててみ?絶対目ぇ離さないでね」
コインの穴に紐を通して、シュヴァーン、……レイヴンさんは僕にそう囁く。それは彼の手に合わせて左右に一定のリズムで振れ始めた。催眠術、というのだそうだ。相手の意識レベルの深くに訴えかける術、しかし魔術ではないらしい。
「俺様は誰だと思う?」
「レイヴンさん、です」
「正解!ちょっと簡単すぎた?」
ははは、とレイヴンさんは楽しげに笑う。振り子はまだ揺れ動いているので僕はそこから目を離さない。「じゃあ次の質問」と彼は呟く。
「私は?」

フレユリ(TOV)

「ようフレン。オレは見つかったか?」
橋の欄干に座る見慣れた男の長髪が風に揺らいでいる。彼は僕をゆるやかに見下ろしながらその目をすっと細めていた。夢か幻覚か、何かはわからないがユーリ・ローウェルの形は確かにそこにあった。見つかっていない、と返事をすると彼は口角を上げる。
「あの高さから落ちたんだ、見つからねえなら海の底に沈んじまったって考えるのが自然だと思うけどな」
「ずいぶん諦めが良くなったんだな。君らしくない」
「オレはお前の言う『オレ』じゃねえからな。お前が勝手に作り出したもんだ。……自分で作ったもんにぐらい都合のいいこと喋らせりゃいいのによ」
その瞳が三日月に歪む。水面に彼の姿は映っていない。
「まだオレが生きてると思ってんのか?」
「君があんなことで死ぬはずがない」
「買いかぶりすぎじゃねえか」
「殊勝なことを言うな」
君は生きてる、それだけが絶対であり真実だ。そう言うと彼は目を丸くして僕を見る。次の瞬間ひゅうと突風が吹いて、彼の長い黒髪がその顔を隠した。木の葉や花びらが彼の後ろを通り過ぎていく。やがて風が止んでユーリの表情が露わになったとき、そこには満足げな笑みが浮かんでいた。
「お前、ほんとオレのこと好きな」
「……返答は控えるよ」
はは、と笑って三日月は輝いた。相変わらず水面に彼は映らない。

フレユリ(TOV)

「指輪も用意できねえのか騎士様は」
そう言って声を上げて大笑いする友人の人差し指は僕の手の中の花に向かって指されていた。一輪の黒い花だ。風に揺られながら沿道の日陰にそっと咲いていて、僕の足の先がその花に向いた瞬間に彼が好きだということを自覚した。だから急いで花を摘んで遠征先から彼の元へ帰ってきたのだが、……いざ渡してみればこの反応だ!確かに自分でも驚くほど間抜けだとは思う。20を過ぎた男が息を切らして男に花を差し出しながら告白をしているのだ。それに彼の性格上、こんなこと笑うに決まっている。それでも止められなかった。今回だけは絶対にユーリを逃したくなかったのだ。
「はあ。ここ最近で一番笑ったわ」
「……すごく失礼だぞ、君」
「しゃあねえだろ。イケメンの騎士団長様が肩で息しながらちっこい花持って『君が好きだ』だぜ?下町のガキ共でももうちっとは背伸びした告白できるっつの」
やべえまた笑えてきた、と呟いてユーリは再び大きな声で笑い出す。僕はといえばただただ顔を熱くするばかりだ。やはり思いつきで行動するのは良くない、せめてもう少し頭を冷やしてから伝えるべきだった。そう思い花を差し出す手を引こうとしたとき、ふと彼の白い指が僕の腕を掴みそれを静止した。
「待てよ。もらわねえとは言ってねえ」
ユーリの指は花まで滑り、僕の手をするりとなぞる。漆黒の瞳は真っ直ぐにこちらを見つめていた。
「くれよ」
「……、指輪を買ってくるよ」
「拗ねんなよ、例えだって。指輪は性に合わねえしな」
僕が手を解くとユーリは花を柔らかく掴んだ。花びらを軽くつまみながら笑っている。
「まあこっちも柄じゃねえけど。……悪い気はしねえな」
そう言って上機嫌そうに微笑んだユーリは、その瞳の中に僕をじっと閉じ込めた。そういえば昔から、その目に吸い込まれそうだとよく考えていた。もしかしたら僕はずっと以前からこうして彼に捕われていたのかも知れない。僕の思考を知ってか知らずか、ユーリは静かに目を細めた。
「ありがとよ」
その笑顔はなんだかいつもの彼らしくなく、とても純粋な喜びに溢れているように見えた。まさか、と思いながら僕は息を呑んで次の言葉を待つ。……が、一向に先は紡がれない。
「あの、返事を言ってくれないか」
「言わなきゃわかんねえか?わかるだろ、なんとなく」
「きちんと言葉で聞きたいんだが」
「やだね。言わせたきゃ次は花束持ってきな」
「……君というやつは本当に…」
でも好きなんだろ。そう言われて僕はついに閉口した。昔から口では彼に敵わないのだ。妙に勝ち誇った顔をした彼を見つめながら、僕は一番近くの花屋はどこだったかを懸命に思い出そうとしている。
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