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龍アソ未完(大逆転)

「……服を脱がせてもいいか?」
「……だから、いちいち訊くなと言っている」
ごくりと生唾を飲むぼくに亜双義は完全に呆れているが、その体は抵抗もなくぼくを受け入れてくれていた。釦に掛ける紐はすべて外されていたから、それ以外の箇所に手を掛けた。徐々に表れていく肌色に目を奪われる。しっかりとした胸板と腹筋。その所々に古傷があることは知っていたけれど、よく見ると新しい傷も増えているように思える。ぼくの視線に気がついたのかまた思考が漏れたのか、亜双義はその傷について言及してくれた。
「船員をしていた頃は、何分力仕事が多かったからな。客人との揉め事も無い訳ではなかったから、必然的にだ。それに従者になってからは刺客の撃退などもすることがあったからな」
「ああ……新聞にも載っていたな」
「まあ、いろいろと苦労もしたということだ」
「おまえなら大丈夫だったろうと思うけど、無事で良かったよ」
傷を撫でながらそう呟く。その痕がほんのりと赤らんでいるのは、皮膚が薄くなっているからだろうか。耳元では微かに吐息が聞こえてきた。



たぶん前書いた奴の削った部分

龍アソ未完(大逆転)

「亜双義、これ。面白かったよ」
手渡されたのは以前貸した通俗小説だ。愛憎の縺れ故に女が男を殺害してしまう狂気の沙汰を精緻に描いた作品である。そうか、面白かったか。
「ちょっとコワかったけど、人間らしさというのがよく表されてたというか。おまえもこういうの読むんだな」
「参考程度にな」
「参考?」
「事件の事例に似たようなものがあるからな。理解の足がかりになる」
「ああ……。恐ろしいな、人の感情というのも」
眉を下げる成歩堂を見据え、その名を呼ぶ。短く返事をした男の真っ直ぐな瞳はオレの思考を柔く鈍らせた。
「この話の中に正義はあったと思うか」
「……難しい話だな」
オレの表情を見て長くなりそうだと悟ったのか、『続きは牛鍋屋で』と男は柔和な声で言った。そのハラが切実な声を出していることに気がついていたので、笑いながら頷いてやった。

水の入った湯呑みを持ち、部屋の片隅で立ち止まる。何かが頭を殴りつけるような不快な心地が続いている。灯りのひとつもつけていない暗闇だけの部屋の奥には本が鎮座していた。成歩堂に貸したものだった。
いやに明るい月が窓の外から横っ面を差してくる。素足で踏みしめる畳の目の一つ一つをずいぶん過敏に意識することで平静を繕っていた。今、何か一つでも物音が聞こえれば暴れだすだろう、この体は。随分長い間そうして立ち尽くしていたオレは、やがて湯呑みを持つ手から力を抜く。静かに溢れた水が畳に染み込んでいった。



もう上げてたらすまない
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