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最原と王馬未完(論破V3)

そこには王馬くんがいた。ちゃんとした姿を保って、相変わらず何を考えているのか分からない笑顔を顔にべたべたと貼り付けて、僕を正面から見据えている。久しぶりと声をかけると彼は返事代わりに僕の名前を呼んだ。
「最原ちゃん。なんでオレはここにいるのかな?」
「わからない。僕が望んだからか、キミの嘘のせいか、そのどちらかだとは思うけど」
「あは、はっきりしないなあ。最原ちゃんは根暗だから回りくどい喋り方しかできないのかな?」
王馬くんの不必要な煽りを無視して、僕は彼に指で「4」という数字を指し示した。眉を少しだけ顰めて怪訝な表情を浮かべる彼に、「あと1イベント」と僕は呟く。
「僕の命のカウントダウンについて、キミが提示したイベント数は全てを合計して5イベントだった。でも僕が体験したのはたった4イベントだ。つまり、残りの1イベント。それをなかったことにするっていう嘘を僕は今キミにつかれていることになる。けど王馬くん、君はこういう『つまらない』嘘が嫌いなんじゃないか?」
王馬くんはしばらくのあいだ音もなく僕をじっと見つめていた。しかしやがて、嘲笑するようにぷっと吹き出す。僕への視線にはわざとらしいほどの哀れみが込められていた。
「最原ちゃん、いいこと教えてあげるよ。それは通信簿、それか絆イベントって言って『ダンガンロンパ』の伝統的なシステムなんだって。2イベント中にオレが宣言した『残り3イベント』って数字もきっかり今までのダンガンロンパが定めてきた通信簿の数字だよ。リアルフィクションに移行してもそのシステムは無意識に参加者に組み込まれてたみたいだねー。あれはキミの意思が肝心なんであって、通信簿を埋められる側のオレの意思は関係ない。あんなのは嘘とは言わないよ」
かわいそうな最原ちゃん、そう言って王馬くんは大きな声で笑う。お前はお前の大嫌いなダンガンロンパに縛られて今ここにいるんだ。きっと彼はそう言いたいのだろう。でもそれは見当違いな見解だった。僕は確かにダンガンロンパを否定したし、ダンガンロンパは終わったのだ。
「つまりキミは、あれはダンガンロンパの中でのゲームだったって言いたいんだろ」
「うん、そう!あれはクソゲーの中でのおまけ要素ってことだよ」
「それは違うよ。あれは他のなんでもなく、キミが僕に与えたゲームだった」
言い切った僕に対して王馬くんはただニコニコと笑みを浮かべる。でも彼の言葉はいま止まった。そこがきっと何より重要な部分だ。
「僕はずっとただの最原終一としてキミに会って、命をすり減らしてきた。今も僕は僕だけの意思でキミとゲームをしに来たんだ。ダンガンロンパが終わってもキミのゲームは終わってない。王馬くん、最後のイベントを始めてもらうよ」
すべてを言い終わったあとに訪れたのは彼のけたたましい笑い声でもそらぞらしい罵倒でもなく、ひたすら透明に澄んだ静寂だった。王馬くんの表情からは何も読み取れない。いっそ、なんの表情もないように感じられる。その紫色の目の中には確かに僕が映っていた。ひそかに息を吐けば何もない空間にそれは大げさに反響する。王馬くんの呼吸の音はいっさい聞こえない。当たり前と言えば当たり前だ、彼にはもう喉も肺も無いのだから。
諦めたように彼が笑ったのはそれから少しした後だった。腕を頭の後ろで組んで、しつこいなあと上機嫌に呟く。
「いいよ、確かに残り1回残してるっていうのはオレ的にも気持ち悪いしね。最後は……そうだなー、ナイフゲームでもしようと思ってたんだけど。ここにナイフなんかなさそうだし、うん」
王馬くんはうーんと唸ったあと、何かをひらめいたのか目をらんらんと輝かせはじめた。そして右手を僕に勢いよく突き出す。
「じゃんけんしようか、最原ちゃん!」
「……ま、また?」
じゃんけんと言えば、4回目の時にさんざんあいこ続きで勝負を延長させられた苦い記憶がある。あれをまたするのか、と思うと急激に億劫になったけど、そんな僕の心でも読んだかのように彼はにししと笑った。
「安心してよ、今回は100回あいこ続きなんてことにはしないからさ。一回限りの真剣勝負ってヤツだよ」
じゃあ始めようか!言って、彼は僕に考える暇すら与えず「最初はグー」と唱え始める。(おそらく)100回も狙ってあいこにできる人間に勝つことなんて可能なのか?と考えながら、僕は慌てて手を構えた。
「じゃーんけーん、ぽん!」
彼の明るい声を合図にお互いが手を繰り出す。策略も立てられずがむしゃらに放った僕の手の形はパーだった。対して王馬くんの手は、……パーだ。
「……王馬くん」
「たはー!またあいこになっちゃったね!いやあ、勝敗つかずかー。残念だったね最原ちゃん」
「…………」
呆れと同時に疲れがどっと肩の上へ降り掛かってきた。なんというか、けっきょく彼はこういう人なのだろう、と思う。ここから何度じゃんけんをしたって彼はきっとあいこを出し続けるのだ。僕がここにいる限り、彼が彼である限り。けれどもう『ここから』は存在しない。僕らの最後のじゃんけんは、あいこで終わったということになる。
「最後なんだから勝てばよかったのに」
苦笑しながらそうつぶやくと、わかってないなあと彼は首を振った。
「最後だからこそのあいこだよ。だって勝敗がついちゃったら、それは最原ちゃんの中で『終わった話』になっちゃうでしょ?でもあいこにしたら、オレは最原ちゃんを簡単に殺せる」
「……言ってる意味がわからないよ」
「最原ちゃん覚えてる?オレはさあ、最後にキミを殺すって言ったんだよ。現にいま最原ちゃんは死んだから、目標は達成!」
まったく意図の掴めない王馬くんの発言に頭をひねりながら、いちおう自分の左胸に手を当ててみた。当然ながらそこはちゃんと規則的に律動している。
「僕は生きてるけど」
言うと、王馬くんは大げさなくらいの大きさであははと笑ってみせた。そして自らの口に人差し指を当て、いたずらをする子供のような表情を浮かべる。
「ううん、死んだよ。キミはあのバカみたいなゲームを終わらせたあともオレとのゲームをずっと覚えてた。そしてそれも今日やっと終わらせようとしたのに、相手のオレが終わらせることを永遠に放棄した。キミは終わりなく続くゲームを死ぬまで抱えて生きていかなくちゃいけない。そこに最原ちゃんの意思は関係ないし、最原ちゃんの心はもうオレのものだ。『王馬小吉を知ろうともしなかったキミ』はもう未来永劫息をすることがないんだよ」
「……つまり?」
「あは。つまり、最原ちゃんはもう一生、オレのことを忘れないよね!それがオレの勝利の印で、最原ちゃんを殺した証拠だよ」
それは輪郭のぼやけた、けれど言葉の淵を追いやすい不思議な単語たちだった。僕は王馬くんに殺された。なんにせよ、そこは彼にとっても僕にとっても確かな事実であるようだ。


通信簿の進行度によって最原の王馬に対しての認識はけっこう違うと思うからおもしろいよな〜と思った
個人的に4で止まってるのが一番おもしろそ〜と思う
でも王馬喋らせるのやっぱりくそ難しいなー精進します…またアレだったら続きかくかも…
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