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ナルオド(逆裁4)

「みぬきはねえ、ぼくが二日酔いのときはいつもおデコにキスして早く治るおまじないをしてくれるんだよ」
何を言ってんだこの人は。近寄りたくないなとしか思えないが、時はすでに遅かった。この場から去ろうと背を向けた瞬間、ソファーに座っていた成歩堂さんに後ろから捕まえられてしまったのだ。力が強くていくら抵抗しても振り払えない。こんなことならもっと鍛えておけばよかった。
「でもそうだな、ぼくはオドロキくんほどおデコに自信がないからなあ。わざわざさらけ出すのもいやだな」
「まだ酔ってるんじゃないですか成歩堂さん」
「そう見えるかい」
見えますけど、むしろそうにしか見えませんけど。思いながら携帯をポケットから探しあて二日酔いについてネットで検索する。指が震えてボタンが押しにくい。背後で成歩堂さんが頭をぐりぐりと押し付けてくるのを感じながら何とか検索結果にたどり着いた。
「成歩堂さん、二日酔いにはオレンジジュースとチョコがいいらしいですよ。オレ買ってくるんで離してください」
「まだグレープジュースが残ってるからいらないなあ」
「いや、オレンジジュースじゃないと意味ないです」
「知らないのかいオドロキくん、グレープは万能なんだよ」
「じゃあグレープジュース飲んで治せばいいじゃないですか!」
彼の言葉は支離滅裂だ。いつも以上に意味がわからないしとりつく島もない。頼むから早く離してくれ、と祈りにも似た気持ちで軽く成歩堂さんの腕をはたく。しかしそのせいでさらに強く抱き締められていい加減泣きたくなった。いったいこの人はオレに何をさせたいんだ。
「そうだなあ、オドロキくんにはおデコじゃなくて唇にしてほしいかな、おまじない。してくれるだろ?」
冗談のような口調でも、冗談のような行動をこっちがしなければ離してはくれないということはよく分かった。やっぱりこの人は変わっていない、弁護士時代の映像で見たときのまま強引でズルくて怖い。オレは体の力を抜いて、彼の名前を呼んだ。
「何が見えてるんだか知りませんけど。もう全部分かってるならはっきり言ってくださいよ」
鎖だか鍵だかがどうせずっと表れていたんだろう。ハッタリでこの人に勝つことなんか当分は不可能だ、そんなことはとっくに分かっていた。
「おや。いいの?」
「はい」
もう半ばヤケクソで、暴くなりなんなり好きにしてくれとすら思っていた。どうせどこ行ってもこの人の前じゃオレは被告人だ、この人を好きになるというのはそういうことだ。ただこれが原因で事務所を辞めさせられて無職になったらどうするかとか、今はそんな心配ばかりをしていた。成歩堂さんはオレの背後で呑気に笑い声をあげ、オドロキくん、とオレに呼び掛ける。
「試して悪かったね。ぼくもきみが好きだよ」
「……殴っていいですか」
「二回目はいやだなあ」
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