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龍アソ(大逆裁)

腕章をいつものように右腕につけて狩魔を腰にたずさえ歩く。道標がないのにももうずいぶん慣れた。先頭はぼくで、後ろにつづく人ももういない。長い道のりをずっと一人で歩いていた。
もうどれくらい進んだか分からないほどの道を歩んで、ああそろそろ足も疲れたし休憩を入れようかしらと思った矢先。どこかから聞き覚えのある声を拾う。
「成歩堂」
きょろきょろと辺りを見回すものの声の主は見つからない。こっちだ、と導く音になんとか照準を合わせると、視線の先には亜双義がいた。手招きしながらぼくに微笑んでいる。ああ何だ亜双義だったのか、良かった。思いながらそちらに歩み寄った。
「何処に行こうとしているんだ」
尋ねられて、そういえば何処に向かっているのだったかと考える。まず此処はどこなのかもよく分からない。ぼくは何のために歩いているのだろうか? 思ったことをすべて端的に伝えると、亜双義は「何だそれは」と可笑しそうに呟いた。何だか照れくさくて苦笑いをひとつ返す。
「まあ、ついて来い。この辺りには多少明るいからな、オレの知っているところになら連れて行ってやれる」
「本当か!助かるよ」
やっぱり持つべきものは頼りがいのある友だ。前を行く亜双義に着いて足を踏み出す。先刻までの舗装された道を逸れ、草の生い茂る横道を進みはじめた。前方は冗談のような暗がりで、まったく先の景色がうかがい知れない。亜双義は時たまぼくに振り返ると解けるように笑った。見えない先や明かり一つない周囲はどこか懐かしさすら孕んでいる。
「なんだか思い出すな」
「何をだ」
「密航した時をだよ」
あの時もこんな風に先が見えずに不安で、明かりなんて一つもなかった。僅かな時間だったけれど強烈に身体に刻み込まれた奇妙な体験だ。不安と高揚で毎日眠るのも一苦労だった。
「おまえに誘われなければあんな体験はしないまま死んでいったのだろうなあ。当たり前だけど」
「そうだな。あれはオレの人生で一番の、……」
言葉尻はうまく聞き取れなかった。亜双義の足に迷いはない。明日の晩は何を食べようか、と考えているうちに、辺りに光が見えてきた。真正面では大きな扉が眩く輝いている。此処だ、と亜双義は低くぼくに告げた。
「これでようやく、永遠に、オレとキサマが離れる事は無い」
「そうなのか?」
「ああ。未来永劫だ」
その目があまりに満足気に細められていたものだから、つられてぼくも微笑みを浮かべた。


せっかく天国に向かってた龍ノ介を地獄に誘う亜双義

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