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龍アソ(大逆裁)

それは図書館で亜双義の目当ての本探しを手伝っていたときのことだった。お互い同時に本を発見して同時にそこに手を伸ばし、背表紙に触れた瞬間に互いの手がぶつかってしまう。慌てて双方手を引っ込め、ぼくは「ごめん」と亜双義に簡潔に謝った。何故か返事は返ってこない。気を取り直して本を取り出し、表紙をしっかりと確認して聞いていたとおりの物だと確信する。
「ほら、これ」
そう言って亜双義に振り返り本を差し出す、つもりだったのだが。目の前のその表情を前にした途端、ぼくは手から本を取り落としてしまった。バサリと紙と地面がぶつかる無慈悲な音がする。
「……落とすな」
たっぷりの間を空けてそう呟いた亜双義の顔は、その首の後ろで普段より妙ななびきかたをしているハチマキのように、とてつもなく赤い。人間こんなに赤くなるものなのかしらん、と思ってしまうほどに赤かった。何故と一瞬考えたけれど、原因なんて一つしか有りはしないのだから困ったものだ。たかだか指先と指先が触れただけだというのに、ああ友よ、いったいどうしてしまったんだ。隠し事が下手な訳ではないだろうに、そんな様子を見せられてしまっては何もかも察してしまう。ぶつかった人差し指からじわじわ熱が放たれて、それはすぐに身体中を駆け巡った。顔が特に熱い、たぶん目の前の男と同じような色味をしている。落ちた本を拾いもせずにただ見つめている亜双義とそんな亜双義に目をやっては逸らすぼくという一種の地獄絵図は一定時間続いてしまい、埒が明かずに雑巾のように言葉を絞ったのはぼくなのであった。
「……こどもでも照れないぜ、これくらいじゃ」
「………たたっ斬るぞ」


煩悩
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