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スレミク(TOZ)

バレンタインネタ
たぶん学園
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「スレイ、ほら」
と、突然ミクリオに箱を投げ渡された。青くて小さいそれには、控えめにリボンがあしらわれている。まったく状況がわからない。
「なにこれ」
「…今日は何の日だ?」
物について尋ねてるのになんでそんな答えが返ってくるんだ?と心底不思議に感じつつ今日の日にちを思い浮かべる。しかし考えても特に催し物の予定なんかは思い当たらず、ますます疑問は根を深くするばかりだった。
「なんの日でもなくないか?」
「…やっぱり今年も忘れてるんだね」
ミクリオが不満げにため息をついて腕を組む。なんとか記憶を手繰ってはみるが、やっぱり思い出せない。ほぼギブアップという意味を込めた視線を送りながらうーんと唸ると、ミクリオはやがてふっと微笑んだ。
「今日はバレンタインだよ」
それはチョコレート、と箱を指さされる。バレンタイン。なるほど、そういえばそうだった。思えばミクリオに毎年もらっているのに、確かに毎年この問答をしている。
「…えーと」
頬を掻きながら恐る恐るミクリオのほうを見ると、無言で肩をすくめられる。なんだか申し訳なくなって謝ると、「君らしいよ」と笑ってくれた。相変わらずどこかオレに甘いんだよなあ、なんて考えてしまう。
「毎年ありがとな。いつもこの日のミクリオのお菓子はいつにもまして美味いよなあ」
「まあ、この日ばかりは店での材料の品ぞろえもいいからね。確かにいつもより手はかけてるし、何より君のは…あ、いや」
ミクリオはなんでもない、と語尾に覆いかぶせて視線を逸らす。横顔がほんのりと赤い。照れてるのか。でも、なんでだ?首を傾げると、忘れろという言葉とともに脇腹に軽く拳を入れられた。うっ、と小さく悲鳴じみたものを漏らすとその横顔がいつもどおりおかしそうに笑みを浮かべる。こういう時間になんだかほっとしてしまう。
改めてミクリオのくれたチョコの箱に目をやる。控えめながら丁寧な包装に性格を感じてちょっと笑ってしまったら、ミクリオは横目で「何か?」と呟いてオレを睨んだ。怖い。
「でもミクリオってすごいよな」
「…は?何が」
「だっていつもこれ周りの人全員にあげてるんだろ?」
「ああ…。まあ、クッキーはあげてるね」
「え、クッキー?チョコじゃなくて?」
訊くと、ミクリオは「しまった」とでも言いたげな顔をして眉間に皺を寄せた。なぜか目も泳いでいる。反応の意図がよくわからず、とりあえずどうしてなのか訊いてみると、まず返されたのは咳払いだった。それからミクリオは取り繕うように腕を組んでオレに向き直ったが、その後はっとしたように目を見開いた。よくわからないままそれらの顔をただ観察する。やがて急に真面目になったその瞳が、オレの目の中に何かを生み出させようとでもしているかのようにじっと静かに視線を投げ渡してきた。けれど意味はやっぱりよくわからない。しばらくそうしていたミクリオは、目を細めて口を開いた。「そうだ、…チョコは君だけだ。そうやって包装してるのも、君に渡すチョコだけだ」
視線は逸らされない。どこかで鐘が鳴る音がした。ミクリオはオレに重大な何かを伝えているかのようだ。拳を強く握りしめている。
考えないと。思考回路が一気に蠢きだす。ミクリオの言葉、この様子、今ここにオレたちは二人きりで、今日はバレンタイン。
様々な要素を一堂に会させ、やがてオレは正面からミクリオのほうを向いた。その目が、ある種の決意のような色に染められる。赤くなった頬を今度は隠そうとはしていなくて、唇はかたく引き結ばれていた。が、ミクリオはオレの視線を受けるとそれを紐解いて、「意味がわかったのかい」と一言言った。だからオレも、被せるようにそれに答えた。
「いや、さっぱり」
「……だろうと思ったよ!」
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