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提督と曙(艦これ)

曙ちゃん、と耳障りなトーンで誰かがあたしを呼んでいる。返事をするのもなんだか癪なので、いったん無視してさっきよりも速いスピードで廊下を歩き始めた。後ろからかつかつとあたしを追う足音が聞こえる。
「曙ちゃん」
「……」
「おおい、曙ちゃん」
「……」
「食堂行くんだろ?一緒に行こう」
「……」
「曙ちゃんは今日もお昼ちゃんこ鍋?」
「食べたことないわよ!」
つい振り返って怒鳴ってしまった。クソ提督は満足気ににやにやと笑っている。いけない、また奴のペースに乗っちゃうわ。平常心を保たなきゃ。ごほん、と咳払いをして提督を見上げる。
「ついてこないでよ」
「えー、だって方向同じだし」
「提督はトイレでボーキ食べてりゃいいでしょ!」
「曙ちゃん、提督人間だからボーキは食えないんだ」
「へえ、それは知らなかったわ。失礼」
踵を返してまた先を急ぐ。けれど後ろからはまた絶えず足音が聞こえてきた。あたしが歩く速度を速めると、それに合わせて足音も速くなる。そのぶんあたしのイライラも募る一方だった。
「…ストーカー」
「曙ちゃん専属だけどな」
「ストーカーっていったら普通専属でしょ、バカじゃないの」
「それより曙ちゃん、歩くの速いな。やっぱり日課のしこ踏みで足鍛えられてるの?」
「殴るぞクソ提督!」
しまった、また振り返ってしまった。提督はまた嬉しそうにあたしを見て笑っている。あー、腹立つ!人のペースを崩すのがそんなに楽しいのかしら!決めた、もう無視を決め込もう。何を話しかけられてももう絶対返事はしない。そう心に釘で打ち込んで、クソ提督のにやついた笑みを視界から振り切るようにまた前を向いた。後ろで「あれ」という小さい呟きが漏れる。それも構わず無心で足を進めた。
「曙ちゃん」
「……」
「怒っちゃった?」
「……」
「あー、曙ちゃん?その、俺にぶつかり稽古してもいいぞ?」
「……」
「曙ちゃあん」
「……」
「…曙」
急に雰囲気が変わった。声のトーンや後ろの気配が放つ空気感さえも。あまりの変化に、意識と関係なく足が止まってしまう。今後ろにいるのはいつもあたしをからかっているふざけたクソ提督ではないかもしれないとさえ思えてしまった。提督は二人の距離の分だけ靴音を響かせて、ついに完璧にあたしに追いつく。次にあたしのお腹に両手を回して、ぴったりと距離を埋めた。一瞬何が起こったかわからなくなって、呼吸が止まりそうになる。そのあとどんどんドキドキが追いかけてきて、顔がバカみたいに熱くなった。
「曙」
「な、何よ…」
頭がうまく働かない。落ち着け、あたしは艦なのよ。今現在の状況をもっと巧妙に把握しなきゃ。そう心で念じてみても、考えなんてまとまらない。悔しいことにいっぱいいっぱいなあたしが固まっていると、提督はそっと優しく言葉を紡いだ。
「はっけいよいのこった」
「死ね!!」
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