「結婚しよう」


幸せにする、と俺は目前のそいつにこう言い放った。言い放たれた側の男、狛枝はただでさえ無駄に大きい瞳をよりいっそう見開いて、完全に動きを停止する。戸惑いの中にきらりと輝くその光景を、俺は愛していた。狛枝、可哀想できれいなお前を幸せにしてやる。純粋な喜びを教えてやるのだ。俺にはそれができる。根拠なんかないけど、それを言うならできないという根拠だってないのだから。強い風が吹いて、狛枝の髪がふわふわと揺れていた。目を細める狛枝に手を差し伸べる。するとあいつは俺の手を凝視して、何かを言おうと口をちいさく開いた。けれどすぐにそれをつぐんで、静かに俺を見る。その瞳から垂れる雫はおそろしげに俺を脅迫した。狛枝、きれいだ。きれいだぞ。口をついて出たその言葉を受けた狛枝は、眉を下げてうれしそうに口元を歪めた。なんて美しいやつだと思った。


「冗談じゃないよ、予備学科ごときと結婚だなんて」


ああ、狛枝。俺の可愛いドブ。お前はこれからもそうやって、俺を世界にあてはめず生きていくのだろう。愛してるぞ。