ジュアル未完(TOX)

抵抗を試みる両手の力はさすが傭兵だけあって煩わしいぐらい強い。20cmほどの身長差がある僕らだ、普通なら小さい僕の不利でアルヴィンの圧勝という結末に終わるだろう。しかし残念ながら、僕は人が触れられると弱い箇所に詳しい。とりあえず、とぎりぎり爪が食い込むほど力強く彼のそれと相対していた両手の右だけをさっと離し脇腹を突いた。彼は完全に油断していたという体で、うひゃだかなんだかよくわからない声をあげた。その際に力が弱まった瞬間を僕は逃さない。即座に彼の両手をシーツへと叩きつけるように押しつけた。一瞬顔を歪めたアルヴィンは、卑怯だろ、と年甲斐もなく怒っている。

「べつに正々堂々といこうとは言ってないよ」
「それでもおたく、こういうのには同意ってもんが必要で」
「同意ならさっきしてくれたでしょ」

はあ?なんて間抜けな声を出す口は手で塞いでしまった。必死に喋ろうとしているアルヴィンの息が手のひらにかかってちょっとくすぐったい。じたばたと暴れることをやめようとしない手と足をのしかかるように押さえつけておくのも少し疲れてきた。特に手なんかはいま片手で彼の両手を封じているわけだからかなり骨が折れる。僕は上体を前に倒してずいっとアルヴィンの顔に自らのそれを近づけた。鼻同士が触れるような距離に、アルヴィンの動きがぴたりと止まる。大人しくなった彼を前に、僕は薄い赤を見つめながら静かに呟いた。

まどかとほむら(まどマギ)

「好きなの」

ほむらちゃんはそう言ったのだった。わたしより少し離れた場所で。白くてきれいな頬に涙をまぶしながら。裏通りの道は夕日を細やかに遮って、けれど微かにわたしたちはオレンジに染まる。おひさまが西から東に沈んじゃうねと口にしてさやかちゃんに笑われたのは何年前のことだったろう。

「巴マミが、好きなの」

ほむらちゃんはきれいだった。何があっても変わらずきれいにあった。でも急に見慣れた彼女の制服姿が窮屈そうに見えて仕方がなくなった。わたしは自分を、自分の思いをきちんと理解することはしようとしない。常識とか体裁とか、そんなものでほむらちゃんという友達をはかることに、なにかいいことがあるとは感じられなかったから。それにいまから突然ひとりの友達をひとつの異色として見れるほど、わたしは器用でもなかったし。マミさんという単語にだけは、素直に驚いたけれど。わたしのひとりは、いつまでもわたしに顔を向けない。俯いて嗚咽を零すばかり。噛みしめられた唇が、痛そうだなあと思った。

「ごめんなさい」

気持ち悪いなんて言わないで、だって。なんだかほむらちゃんがちいさく見えるよ。彼女はそうやって今日まで想いを押し殺してきたんだろうなあと思った。彼女は日の照る道に出ないまま、影を歩く。そうして、そんな影の中にいるひとりを見つめているわたしに、ほむらちゃんは嫌われたくないと言った。わたしは暗がりの迫りかける空を見る。夕焼けはきれいに私の目を焼いたのだった。


青い花パロのはずだった
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