話題:突発的文章・物語・詩

 病床の母が、同僚が、街の人が亡き父の話をする度、おれはどうすべきだったのだろうと胸中で自問自答する。彼は民に、国に、世界に選ばれた英雄だった。世界を救う、そんな希望を背負った強い人だった。ただ幼かったあの頃の自分にはその事の重大さが理解出来ないでいた。父の背を見送る母の顔が今にも泣き出しそうだったのが、今にも強く記憶に残っている。

 父の死が謀殺だと知ったのは一兵卒になってしばらくの事だった。王が乱心したとは表向きの理由だが、その実王は魔物と掏り替わっているというのは、中枢部では知れたことだった。ただ、討伐するにも狡猾な魔物は中々に本性を表さず、みな機会を伺いつつも強いられる悪行に次第に疲弊していっていた。
 彼女達が国に訪れたのは、丁度そんな時だった。

 十数年会わなかった間に驚く程に彼女は美しく成長していた。あの勇者の娘とは思えないくらい臆病で人見知りの激しかった少女が見違える程に冷たく厳しい表情をしていて、自分と同じく父を亡くした彼女の境遇を思うと胸が締め付けられるようだった。きみが戦う必要はないんだ。年端もいかない少女にそんなことすら言ってやれない自分が嫌だった。
 お伽噺だと思っていた真実を映す鏡をその手に、彼女達は王宮に乗り込むと言っていた。夜を待つことを勧めその間に城への侵入の手引きをする。後は彼女達を信じるだけだ。わかっている。わかっていた。自分は勇者でも英雄でもない。ただの臆病者だ。それがたまらなく悔しくて乱暴に壁を殴り付けるしか出来なかった。


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 本編IF。腹黒お兄さんがPTinしないルート。
 ドラクエ3実況見てたらうちのルーウェン視点で書きたくなったので。
 サイモンさんの息子ってことでいろいろあって煮詰まってる時期。勇者がエジンベア訪れたのは彼にとっても転機になったのです。