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神域第三大戦 カオス・ジェネシス122

「“信仰”ってのは、貴様らが思うほど狭義じゃねぇってこった。分かったか?」
「…つまるところ、嘘でも今だけでもいいから、とにかくアンタを信仰してそれを示せってことだろう?」
「そうだ。だから、成功するのか?なんてことを考えるな。それは俺を疑っているということだからな」
パチン、と、髪留めが留まる音がする。その音にそちらへ視線をやれば、僅かに身綺麗にしただけだというのに、妙にそのタラニスは神格高く見える気がした。
前に垂らしていた深い紫の髪を後ろに流せば、やけにその髪も煌めいて見える。
「………こちらは準備に入る、合図をしたらウィッカーマンを出せ、いいな」
「…承知した」
タラニスは、最後に静かにそう告げると、バロールの目を盗んでその場からそっと離れた。策をなした直後に攻撃されないようにするためだろう、タラニスの姿はまだ辛うじて残っていた木々の影へと消えていった。
『キャスター、アーチャー!』
「!」
息をつく間もなく、バロールとルーによる戦闘の余波が二人を襲う。衝撃波があまりに鋭く刃のようになっているそれを両者は屈んで交わし、目配せを交わし合うとそれぞれ反対の方向へと跳んだ。
「やれやれ、参ったねこれは」
「!生きてたか」
「生きているとも」
たたた、と走って間合いを計っているクー・フーリンの元へ、マーリンがひらりと姿を見せた。白い衣装は至るところが薄汚れているが、足元に溢れる花弁は色褪せることなく咲き誇っていた。
クー・フーリンにかけていた防衛魔術がとけていることに気が付いたか、ついつい、と指をふるい守りをつける。
「そろそろ例のどっきりとやらをするのかい?」
「あ?おお…まぁな。余裕案なら魔力寄越せや」
「遠慮がないな君は!」
『…!キャスター、レオナルドから報告だ。向こうの方は決着がついた!凪子くんと深遠なる内のものが、二人でこちらに向かっているそうだ』
「あ?深遠のの方もくるのか?」
「一度乗っ取られていたんだろう?大丈夫なのかい?」
二者の不安げな言葉に、通信先にひょっこりとダ・ヴィンチが顔を覗かせた。
『彼女の乗っ取られは、サシでの勝負に負けて埋め込まれた、5つの要石によるものだ。この状況で再び埋め込む余裕はさすがにないだろうさ』
「…ならいいけどよ」
『ただ気になることがある。後半、彼女の中にバロールを復活させた当事者だと語る何者かが入り込んでいた。主導権を取り戻す時に弾き出されたそれが、そちらに行っている可能性がある』
「何?」
「成る程甦らせた輩が全く関与してこないというのは妙な話であるしの」
「!?ダグザ翁、」
突然会話に現れたダグザにマーリンはぎょっとしたように振り返った。驚いたのはクー・フーリンは同じで、彼の神は全く気配を感じさせなかったようだ。
ダグザはやや煤汚れた顎髭を撫でた。
「……これからタラニスめが動くのじゃろう?ならば儂はそちらに当たろう」
「大丈夫か?」
『それは外なる神を名乗っていた。全てが未知数で実力が測りきれない、危険であると言わざるを得ないぞ』
「なれば尚のことよ、人のお主らを向かわせるわけにはいくまい。深遠のがどちらも向かってきておるというのなら、戦力的にもどうにかなろう。…くれぐれも死んでくれるなよ、ルーにこれ以上、背負わせてくれるな」
「………っ」
スッ、と目を細め、有無を言わせぬ声色でそう念を押してきたダグザに気圧されている内に、ダグザは早々に姿を消してしまった。
「……覚悟を決めるしかねぇな」
「ぐっ!」
「!!光神が、」
姿を消したダグザにクー・フーリンがぽつりとそう呟いた直後、ルーの戦況に動きが出た。
ばっ、とそちらを向けば、大きく弾かれたらしいルーが身体を回転させながらどうにか体勢を持ち直していたところだった。一方で、ルーを弾いたバロールが高らかに笑い声をあげる。
「さァて、前座はここまでだな、ルーよ!ここまでではないだろう?なァ、抗ってくれるんだろう!?我が邪眼に!」
「チィッ…!」
忌々しげにルーは舌打ちをしたが、先のように荒業で目を閉じさせる余裕はすでにない。じわり、バロールの魔眼が光を帯び始める。
「さぁ、どうするんだ?!」
「……っ」
「うるせぇぞ、死に損ないが!」
「!!」
楽しそうなバロールと、僅かに焦りの色を見せるルー。その両者に割り込むように、タラニスの声が高らかと響き渡った。
それを合図ととったクー・フーリンは、ダンッ、と杖を地面に叩きつけた。
「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人」
地面を叩きつけたところから勢いよく木々が飛び出し、唐突なクー・フーリンの動きにバロールが意外そうに視線を向けてきた。
ぞくりと背筋に寒気が走るが、彼は臆することなく睨み返した。
「因果応報、人事の厄を清める社――我が信仰、雷神に奉らん!ここに示すは、ウィッカーマン!!」
意味があるのか、効果になるのかなぞは正直いって分からない。だが、クー・フーリンは詠唱を少し変えて、その場にウィッカーマンを作り上げたのだった。

神域第三大戦 カオス・ジェネシス121

「…凪子さん……」
走っていった凪子と深遠のは、あっという間に姿を消した。マシュから漏れた心配の声は、リンドウに会うことなく戦場に向かった深遠のに対してか、あるいは修復したとはいえ、肉体疲労で足がもげ腕を爆破されたほどのダメージを負っているはずの凪子に対してか。
ヘクトールは左右に視線をやりながら、槍を肩に担いだ。
「マシュ、マスター、さっきの変な神がまた姿を見せないとも限らねぇ。そうなった時厄介だ、早く行くぞ」
「……うん、行こう、マシュ!」
「……。はい!」
藤丸の声についにマシュも覚悟を決め、3人は凪子達が向かった方向とは違う、リンドウの森に向けて走り出した。



「、っらァ!!」
「ッ、…はァ!!」
ガァン、と、鈍い音が森に響き渡った。

―否、そこはもう森といえるような所ではなかった。
近隣の鬱蒼としていた森はルーとバロールの衝突でそのほとんどが焼け落ちていて、破壊されたタラニスの神域同様、駄々広い荒野が広がっていた。その中心地は取り分け大きく抉れ、両者の衝突の激しさを物語っている。
バロールの背後にある木は折れておらず健在ではあったが、衝撃にかその輝きは大分くすんでいるように見えた。
「………ぷぁっ!」
両者の衝突による衝撃波に吹き飛ばされていたクー・フーリンは、己に被さった土をどうにか払い終え、ようやく息を吸い込むことができていた。
「…っ、ぁ、くそったれ、まだ生きてるかぁ!?」
「どうにか。……マーリンはもっと飛ばされたみたいですけど」
ぼすっ、と近くの瓦礫から子ギルも顔を出した。彼も同じように飛ばされていたらしい。
ヒュッ、と風を切る音がして、いつぞやと同じようにタラニスがクー・フーリンの隣に着地した。彼もそれなりにダメージを負ったのか、億劫そうにボロボロになった緑のマントを脱ぎ捨てていた。
「…ん、おぉ、面白いことになってんなお前ら」
タラニスは今回は意図して近寄ったわけではなかったようで、瓦礫にまだ半分埋まっている二人に気が付くと愉快そうに笑った。余裕があるのだかないのだか分からない神である。
「まったく、お陰さまでよ」
「だがちょうどよかった、準備しろ、そろそろ目が開く」
「…………!」
皮肉に皮肉で返したクー・フーリンだったが、続いたタラニスの言葉に思わず口を閉ざした。そして急いで瓦礫から抜け出し、杖を引っ張り出す。
視線を激しい剣劇を再開したルーとバロールの方へと向ければ、なるほど確かにバロールの瞳は先程ルーが強引に閉めたときより開かれている。
不思議なことに、完全に開かれているという判定になっていないのか、ほとんど見えているように見えるがまだ死の呪いは発動していないらしい。それもまたバロールのゲッシュによるものなのだろうか。
「……しかし、本当に効くのか?」
「1つ、良いこと教えてやろうか」
「あ?」
「神の力というのは強大だ。だからな、デメリットがある」
「デメリットだぁ?」
「その能力の強さは、他生物からの“信仰”に大きく左右されるのさ」
「!」
『………言説としてそう言われることは稀に聞くが……本当だったのか』
タラニスが不意に語りだした言葉に一瞬クー・フーリンは顔をしかめたが、続いた言葉に驚いたように目を見開いた。その言葉には、通信先で様子を見守っていたロマニも驚いた声をあげる。
タラニスはこれからの準備のためか、持っていた槍を消し、乱れた髪を簡単に整えていた。
「だからな、確実に成功させてぇなら俺を信じることだ。お前の呼び出したウィッカーマンに乗せる祈りを、本気のものにしろ。それが最大の秘訣だ」
『…つまり、バロールの呪いを跳ね返すだけの力を持たせるためには、貴方に対する信仰が必要?』
「そうだ。それを形として示せ。多ければ多い方がいいし、この非常時だ、質は問わねぇよ」
「…なんというか…それでいいんですか?その…」
信仰がパラメーターを左右する、という理屈はそう理解の難しい話ではない。だが、信仰にも度合いというものがある。タラニスの質は問わない、という言葉は、その信仰の度合いについては問わない、と言うことと同義だ。
そんなことが罷り通るのか、というのが、子ギルが問いたいことなのであろう。タラニスは少しばかり面食らった様子を見せたのち、何か思い至ったようであぁ、と小さく呟くと、にたりと醜悪な笑みを浮かべた。
「いいに決まってんだろ?質の良し悪しを決めるのは神側、つまり俺様なんだからよ。質だの価値だのを決めるのはお前らじゃねぇ、どうもそこんとこを人間は誤解しているみたいだがよ。要は、多少悪いのでも良いことにしてやるっつってんだ」
「………俺のウィッカーマンに騙されてもいいっていうのは、そういう…………」
『………成程。貴方への信仰というのは、何も人間に限った話ではないのか』
ややあってから、ロマニは納得したようにそう言った。

神を信仰するのは、人間だけではない。
その他の動物、生命体、それらが向ける信仰も神々は受け止めている。
故にこそ、その価値を計るのは神なのだ。多種多様の生命から向けられる様々な信仰の形の価値を計ることができるのは、向けられる当事者だけだ。

それ故、人間が考える信仰の度合いの違いなぞ、神にとっては関係のない尺度である、ということなのだろう。
タラニスは理解したらしいロマニの言葉に、楽しげに肩を竦めた。
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ちょっと話はそれるのだけれど改元だ

当ブログのお越しの皆様。

こんばんは、管理人です。
ブログ更新が相変わらず滞っていて申し訳ありません。多分、8月が過ぎたら少しペースは回復するんじゃないかな…と思います。
やらねばならぬことが多すぎて、現状息抜きでやるのがこのブログの執筆…というような状況になってしまっており…。
まぁ、長い目で付き合ってくださいますと幸いです。
1週間に一回は最低でも更新していくと思いますので、はい…。


さて、それはそれとして。
改元ですね。それも譲位による、崩御でない改元。
さんざんニュースやテレビでも話題になっていることだと思うので詳細は省きますが、いやぁ、改元ですね。
こうして記事をしたためている30分後にはもう違う改元となっている、と思うと、年越しそば的にそばをゆで始めてしまう気持ちも分かるような気がします。

それにしても、生きているうちに数世紀ぶりの上皇誕生に立ち会う機会があるとは思ってみませんでした。
上皇といいますとついつい院政の時代が頭をよぎりますが、今は関係のない話ですね。
かつて改元のおりに和歌集が作られたように、平成の終わりには平成の歌をまとめた歌合戦が開催されているとは、と比較して語られているかたもいました。

そう思うと、人間変わっているようで、変わっていない部分があるのかもしれないなぁ、という気分になってきますね。
あれですね、ユングのいう普遍的無意識ってやつでしょうか。
最近頭にいれた知識を使いたくなってしまうのはなんでしょうね、子どもなんですかね。

まぁ、何が言いたいかといいますと。
死ぬまでにもう一度経験するか分からない「改元」という行事に、平成の最後の日に昨日や明日と変わらぬ勉強だけで終わる日にするのはもったいないなぁ、と思い、折角なのでネットの海に瓶レターを流すがごとく、思ったことをブログにこうして雑談としてしたためさせていただいている次第です。


え?それより本編更新しろ??
すみません、明日には更新します。

元号はいらないんじゃないか、という話もありますね。
まぁ、一理はあるのでしょう。別に何か役に立つのか何かに必須なのかといいますと判子ぐらい微妙なところですしね。
ただ、伝統と歴史というものは利便性だけで消してしまうのは惜しいものではあるのではないかなぁ、と個人的には思う次第です。
悪しき伝統は変えてしかるべきとも思いますけどもね。こう、合理性だけで決めちゃうのは寂しいよね、というか。

新元号は「令和」ですね。
そして元号にしては初の日本の古典文学からの出典。今までの中国の古典文学からの引用から進化した、ともいえるのでしょうか。
そういう意味では、元号も確かに変化を迎えているのかな、とも思えますね。

人間なにかと変化していくもの。
いかにその変化を受け止めて、ポジティブに捉えられるか、楽しめるか、それが大事なのかなぁ、なんて、思ったりもします。


では、雑談もこのあたりにして。
平成の間、本ブログをご愛読くださりありがとうございました。
令和になりましても、更新のある限り、緩く、のんびりと、お付き合いいただけますと幸いです。


それではみなさま、良い夜を。


平成31年4月30日
神田來
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神域第三大戦 カオス・ジェネシス120

「………あ、あの、その………」
「………。ん、私に何か言いたいことあるのか」
ぴょんぴょんと片足で跳ねながら凪子が足を拾いに言ったところで、おずおずとマシュが深遠のに話しかけた。自分に話しかけてくると思わなかったのか、ワンテンポ遅れて深遠のは顔をあげた。
その表情は無表情で、何を考えているのかは読み取れない。
「あぁお前、まだ名前ないだろ。とりあえずこっちではルーの呼称に乗っ取って深遠のって呼んでるから、そう呼ばれたらお前のことだからな」
マシュが呼び掛けに迷った素振りを見せたことに目敏く気がついていた凪子はさりげなくそう言った。ぐるり、と深遠のは首を回して凪子を振り返る。
「しんえんの…???……というより、ルーってのは、あの光神のことか」
「そう。今共同陣営………味方になってる」
「カミサマなんて大嫌いだ。なんで味方なんてしてるんだ。お前、本当に私か?」
「まぁ疑う気持ちは分かる、それだけ嫌いだったしな。でもまぁ、色々あるのよ」
「いろいろ」
「んー、まぁマシュの話が終わったら話してやるよ、話しかけたのはマシュが先だろ」
「ましゅ」
二、三言葉を交わしたのち、深遠のはマシュに向き直った。じ、とマシュを見つめたのち、胡散臭そうに目を細める。
「……お前、人か?」
「!」
「まぁ、神じゃないならなんでもいいや。何」
「……その、リンドウさんのことです。リンドウさんは……もう…」
「………………」
すっ、と。ただでさえなかった深遠のの表情がさらに消えたように感じられた。深遠のはじろ、とマシュを見据えた後、ぷいとそっぽを向いた。
聞きたくない、とでも言いたげな態度だ。
「…あなたは、凪子さんと一緒に行くのではなくて、私たちと一緒に戻った方が、」
「急になに?」
「え?」
「ぽっと出のお前になんの関係があるの」
「………それは………」
あまりに鋭い棘のある深遠のの言葉にマシュは驚いたのちに、返答に言い淀む。
困っているらしいマシュの様子に、足をつけ終えた凪子は鞄から石の原石を取り出しながら視線をそちらへ向けた。
「なんか当たり前のように話しかけてくるから答えちゃったけどさ、お前らそもそも何なのさ?そこの同じ顔の奴がどうやら私自身らしい、というのは本当らしいと分かるけど、お前たちは何??あの死神となんで敵対してんのか知らないし興味もないから説明とか要らないけど」
「え、ええっと……」
「というか、あいつ巻き込んでないだろうな?」
「悪い、巻き込まれに来たから巻き込んでる」
「あ゛ぁ゛!?」
ずけずけと飛ばされる言葉にマシュが戸惑っているうちに、かけられた問いに代わりに凪子が答える。リンドウを巻き込んだ、と答えるその言葉に、深遠のの敵意は凪子に向いた。
強く睨み付ける視線に、何やら片手で工作している凪子は視線だけ向け返す。
「……おまえ、私なんだろう」
「私らが思ってるより、あいつも私らのこと思ってくれてたってこった。…この時代の私…つまりお前だ、お前の安否が分からん内には死んでも死にきれないとか言われたら、断れんだろう」
「……………ぐぬ」
「…それに、そもそも私が喚び出されてんのはお前がバロール負けたからだ。そこんところは実力不足を諦めろ。心配せんでも、リンドウに害は及ばないように手は打ってある」
「…………………チッ。あいつみたいな言い回ししやがって」
「へへー」
「…………順応性が高いんだか低いんだか…」
ぎすぎすとしたマシュとの会話とは一転して、兄弟のように凪子と会話を交わす深遠のに、ヘクトールはどこか疲れたように呟いた。
見知らぬ人間が親密に話しかけてくることよりも、未来の自分だと名乗る自分と同じ顔のなにかの方がよほど警戒するべきものだろうに。どうやら深遠のはそうではないらしい。
そうこうしている内に、宝石と鞄に入っていたトラップを作ったときのあまりの木材やらなんやらで義手のような物を凪子は作り上げた。肩との接触面にあたる部分に球体間接のように丸い宝石を取り付けると凪子はおもむろにそれを肩の傷口に突っ込んだ。
「わっ…」
ぐちゅり、と、鈍い音をたてて肉に沈んだ様子に、藤丸は痛みを想像してしまったのか、ひきつった声をあげる。凪子はグリグリと押し付けてそれを安定させると満足げに頷き、パチン、と指をならした。
それが魔術のトリガーだったのか、宝石を軸として魔法陣が展開すると、木で出来た簡素な義手は肉をもち、あっという間に普通の腕と遜色ない様子に形作られた。器用なものだ。
「…よし、まぁこんなもんだろ。で、マシュはお前さんがリベンジに行く前にリンドウに会っといた方がいいんじゃない?と心配してくれてるわけだが、どうする?」
「…あいつのところには、全て終わらせてから行く」
「と、いうわけだ」
「でも、凪子さん…!」
「そう心配せんでも今日中に決着はつく。バロールとの戦いは持久戦じゃないんだからさ。だとしたら、私の時より早く終わるくらいだぜ」
「…………っ!」
―別れの時間は私よりもある。
暗にそう言った凪子に、マシュはくしゃりと顔を歪めた。凪子は困ったように肩を竦めながら、バロールの領地のある方向へと視線を向ける。
「……それに、それなりの時間が経過しているのに向こうから何の音沙汰もない、ってのが気になる。緊急通信も入ってないってことは膠着状態にあるってことだ。なら、あんまり芳しくないだろ。戦力はあるに越したことはない」
「…っ。分かりました…」
「あの…っ気を付けて!必要があればすぐに行くから、」
「カルデアスタッフの心労のためにも、そんな事態がないことを祈るけれどもね!よっしゃ、お前さん、動けるな?」
「当たり前だ」
「なら行くぞ、ついてこい。ヘクトール!帰路はくれぐれも気を付けてな!!」
「はいよ」
簡素に今後の確認と別れを告げた凪子は、深遠のについてくるように指示をすると、ルーと合流するべく勢い良く地面を蹴って走り出した。
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神域第三大戦 カオス・ジェネシス119

深遠のは声をあげたヘクトールに、きょとんと視線を向ける。その顔は凪子と全く同じだが、随分と幼さを感じさせる。
「誰」
「そ、そこから!?」
「前に一度会ったのは覚えてるか?」
「…………んー、なんとなく」
深遠のは凪子の言葉にぼんやりとした言葉を返す。支配されていた期間のことは一切覚えていない、というわけでもないらしい。
「とりあえず、彼らはカルデア。目的は何でか生き返ってるバロールという、異変の原因追求と解決だ」
「……そうだ、バロール殺しにいったんだ私は、あいつまだ生きてるのか」
「生きてて今ルーと交戦中。あ、ちなみに詳細は省くが結論だけ言うと、バロールが生きようが死のうがリンドウは死ぬ」
「!!!」
「凪子さん!!」
凪子が遠慮なしに投げた言葉に深遠のは限界まで瞳を見開いて凪子を睨み、マシュは慌てたように声をあげた。凪子がリンドウに対しどう思っているのか、全く分からないということはないとマシュは、いや彼女たちは理解していた。だからこそ、凪子の言葉はあまりに配慮を欠いた言葉に聞こえたのだろう。事実、深遠のからは先程の“外敵”に向けられていたのと同様の殺気が放たれている。
だが凪子はそんな深遠のの視線も、マシュの言葉も、気にする様子は見せなかった。
「お前のは悪足掻きだ。運命だとか、そういうんじゃなくてな。人間の身体はもたないのよ。私らと違って」
「………っ……………」
「本来ならウン百年かけて気付いたことだが、敢えて言葉にしようか、今お前と敵対している暇はないからな。人間の時間は有限で、肉体がもたないんだ。だからな、死を司る神様殺しても、無意味なんだ」
どこから出したのか、凪子は煙草を口にくわえていた。凪子が喫煙したことなど今までなかったので、藤丸は僅かにたじろいでいたが、凪子は気にせず自家製の煙草に火をつけた。
「……………………いやだ」
「嫌だろうな。認められないだろうな。さっきも言った通り、私も認めるのにウン百年かかった。……だけど、“人間の”リンドウはその肉体の限界を越えられない。お前がリンドウが人間じゃなくなっても良い、っていうなら、方法はなくはないけど」
「!おい凪子、それは、」
「でもお前、それも嫌だろ。だって、リンドウは、人間であることに誇りを持ってるもんな。…そんで私らは、そんなリンドウを踏みにじれない程度にはリンドウのこと、大事だし、好きなんだよなぁ」
「……………………」
深遠のは何も言わない。だが、向けられていた殺気はしゅるしゅると風船なしぼむように弱くなっていく。
凪子の言葉は深遠のに向けているようで、その実自分にも向けられているように感じられた。その声音はどこか他人事のように冷たいが、自虐的な悲観の色も混じっていた。

そうだ。
今の凪子ならば、2000年分の知恵を得ている凪子ならば、リンドウを死なぬものに作り変えてしまうことも不可能ではないのだ。あの時叶わなかった、かつて叶わなかったリンドウを死なせたくないという願いを叶えることが、今の凪子には出来る。

だが凪子はその道を塞いだ。それは我が儘だからだ。
ーー君は神々によって運命に捉われていない。この世界に捉われることがない。そうであるならば、君に我々の絶望と、それ故に我々が得ることのできる“限りある栄光”を理解できることはないーー
もう薄れかけた記憶の中で、彼はそれを残念そうに、だがどこかで誇らしそうに、凪子に告げていた。彼は人間であることに意味を見いだし、誇りを持ち、そうして死んでいったのだ。為すべきことをなし、果たすべきことを果たして死んだのだ。
深遠のは答えないが、恐らく彼女も塞ぐだろうことを凪子は予見していた。

だって、そんなリンドウが凪子は好きなのだ。大事なのだ。きっと、愛しているのだ。その愛が博愛か情愛か何てのは、性なぞないようなものである凪子にとってはどうでも良い。

「………………私は、馬鹿だ」
「ほん?」
「なのに妙にお前の言葉は入る。認めたくないのに認めてしまう。なんだお前」
ドサッ、と、深遠のは腰をおとして座り込んだ。ぐしゃり、と前髪を手で覆い、その表情はうかがえない。
ふぅ、と、凪子は煙を吐き出した。
「まぁ私は老けたお前だからな。自分がどういう言葉なら納得してしまうか、何てのは大体分かる」
「……大体分かる。お前の言葉は、大体分かる。リンドウが…望んでないのも分かる。……でも」
「でも」
「……………寂しくないのか」
「寂しいよ」
間髪いれずに返された肯定の言葉には、マシュや藤丸の方が驚いた表情を浮かべていた。凪子は再び、煙草を口にくわえて軽く噛む。
「けど、寂しく思うことにも飽きた」
「…………………」
「その辺はお前が追々経験して乗り越えていくことだ。とりあえず、乗り越えはするから安心しとけ。乗り越えられなかったところで逃げる場所もないけど」
「…………」
「そういう訳で、私はこれから足と腕を治したらルーと合流する。お前はどうする?そうは言ってもとりあえずちゃんと殺してみる?死神」
「…………、バロールには勝手に身体を使われた恨みがある、弁償はしてもらいに行く。お前らが殺さないなら殺す」
「了解。じゃ、ヘクトール、藤丸ちゃんらつれて先にリンドウの森に戻っててくれ。そこのが安全だ」
「………あぁ………」
ヘクトールは深遠のと凪子を代わる代わる見ながら、思ったよりも重い話になった会話の内容に曖昧に答を返すばかりだった。
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