19/09/29 15:52 (:花と潮)
春を呼ぶ、僕しかいない



舌打ちと雷のような音がして、それから世界が揺れ始めた。
ぐらぐらと揺れる世界が怖くて母や兄弟の中に潜り込んでいたのだが、そのうち眠ってしまったらしい。

どさ、と世界から落とされた先はどこだか知らない枯れた木が生えるばかりの駄々広いところだった。

「ーーーー、ーーーーーー」

その時の目が、自分達をみる目が濁った硝子玉のようだった。

どうやら見つかって追い出されたらしいと知ったのは母の態度からだ。
飢えをしのぐものは僅かばかり、それらを自分達に与えながら痩せ細る母は最後にその血肉を与えてくれた。

一日が終わっていくたびに雪は降り、与えられた血肉が削れていく気がする。

春は来ない、春はまだ来ない。

一番上の兄が母と同じことをする。
痩せ細った身体に肉などあまりないのに、骨すら残せなかった。

春はまだ来ない。

二番目の兄が銃で撃たれた。
あのとき聞いた舌打ちと、打ち捨てられた兄の身体からは湯気のたつ血がだくだくと流れる。

春はまだ来ない。

三番目と四番目の兄が自分達に体温を与えて死んだ。
熱を失った身体はこんなにも小さかっただろうか。

春はまだ来ない。

五番目の兄が雪に埋って死んだ。
あんなに大きく吠えたのに、身体はどこにあるのだろうか。

春はまだ来ない。

六番目の兄が背中を押す。
自分より小さくなってしまったのに、まだこれだけの力があったのか。

春を探しに行く。




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雪降る山を走る、走る。
春の兆しがない、どこにも見当たらない。

俺は、僕は、私は、家族と笑いたかっただけなのに





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