この作品、小説を読む前に私はいつだったかテレビで映画を見てしまってて、「この作品は原作を読まなくてはいけない」と思ったのでした。ようやくその目標が叶った。
もちろん映画の記憶は曖昧で、けれども読み進めるうちに、そういえばこの河崎って、じゃあ琴美さんは、と思い出すというよりは見たことないのになぜか知ってるといった様子でこわごわ読んでいた。早く続きが読みたい、二年前はどうなったんだ、とぐいぐいくること求心力の強さ。ラストの方は、鼻水ぐすぐすさせながらしんどくなりながら読んでいた。風邪のせいだけじゃあない。
切なさとやるせなさがあって、最後はとても悲しい思いでいるのだけれど、ラストの語り口は明るくて。椎名のいく先も、明示された彼の行方も辛い道行なのだけど、語りは軽く明るい。読んでいた時は、琴美さんも河崎も生まれ変わりを信じるドルジを羨んで信じて笑っているのと反対に、ドルジは日本とブータンの間に取り残されて身動きできないような悲しさを感じたのだけれど、あの語り口と彼の軽い足行きは、こうして書いている間に、ドルジがようやくブータン人らしさというかドルジらしさを取り戻した明るい瞬間なんじゃないかなあと思うわけですよ。だってもう、「死んでも生まれ変わるだけ」だから。
ところでこれ形式としては、夏目漱石のこゝろっぽいと思うのですがどうなんでしょうね。あれとはまあ違うんだけれど。まったく関わりのない第三者に告白をして去るっていうところだろうか……手は届かないんだけど、告白するに足ると思われているという希望なんだか絶望なんだか、ちょっとせつないところで。ああ、でも、良い作品を読んだな。
映画もまた観よう。しかし、誰が読むものでもないとはいえ、いつにもまして支離滅裂な文章である。