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神崎くんと古市くん

これだから後輩って奴は。

「あ、神崎先輩!おはよーございます」
「…はよ」

起き抜けに台所へ向かえば、既に朝食が用意されていた。

…そうだ、今はコイツがいたんだ。

男鹿が居なくなって一週間、このバカがよく訳の分からん小物達に絡まれるようになった。
まぁ、今までは男鹿が居たから直接絡んで来なかっただけだろうけど。
そんな後輩を保護してそろそろ一週間。

「神崎先輩、今日はハムエッグとトーストとサラダと…はい、ヨーグルッチ!」
「サンキュ。お前もさっさと食え、送ってってやる」
「わぁい、ありがとうございます!それじゃ…いただきます」
「…いただきます」

食事前に手を合わせる事なんか今までした事無かったが、コイツをここに置いてからはするようになった。
やらねぇとうるせぇんだわ。

「…あ、今日は家に帰りますね。そろそろほのかが帰って来いとうるさくて」
「…分かった、学校まで迎えに行くから勝手に動き回んなよ」
「えー…一人でも帰れますって」
「ダメだ」
「むぅ…」

向かいに座る古市がトーストを齧りながらむくれてるのは見なくても声で分かる。
学校に居る間はまだいいが、コイツを一人にすると100%の確率で絡まれるからほっとけねぇんだよな。
コイツが絡まれる大半の男鹿のとばっちりだが、それだけじゃないってのは分かってないっぽいし。

「そりゃあ俺、ケンカ弱いっスけど今まで何とか逃げ切ってこれたし…」
「…あのなぁ、お前になんかあったら姫川と東条がうるせぇんだよ。兎に角、今は男鹿もいねぇ。なんかあってからじゃ遅せぇんだ、当分は大人しく俺の言う事聞いてろ」
「…はぁい」

東条と姫川にも散々言われたのを思い出し、大人しくなる。
納得はして無いが、自分の状況は理解してるからこそもどかしいんだろうな。
小さく返事をする古市に目を向けると、むくれてはいないが少し落ち込んでいる様にも見えた。

「…俺が弱いから、皆さんに迷惑かけてるんですよね…もっと強かったら…」

俯きながらもごもごと古市が呟く。
…そうか、お前の考えはそっちになるのか。
力が弱いのなんて前々からみんな知ってるし、お前の武器はそれじゃねぇだろ?
自称、智将が聞いてあきれるわ。

「まぁ、ここらで絡まれなくするには強いに越したことはねぇ。お前が鍛えて欲しいってンならいくらでも手ぇ貸してやる。…でもな、誰もお前の事迷惑だなんて思ってねぇよ。東条と姫川に同じ事言ってみろ、笑われんぞ」
「神崎先輩…」
「それにな、後輩一人守れねぇなんて周りのヤツらに思われてみろ、俺達のメンツ丸潰れじゃねぇか」
「なるほど…?」
「だぁから、今は黙って守られてりゃいーんだよ」

はぁ…ここまで言わんと分からんのか、このバカ。
今まで横に居たのが男鹿だったから分かってないだけだろうが、上に立つ者の矜恃を考えてくれ。
大体、今まで吹っかけられた迷惑に比べりゃたわいもないじゃねぇか。

ふと時計を見ると、そろそろ家を出ないと間に合わない時間になっていた。
とりあえず今は時間が惜しい、とっとと朝食の残りを腹の中に収め立ち上がると、なんとも間抜けな顔した古市と目が合う。

「…古市?」
「っあー……神崎先輩、マジ格好良いっスね」
「は?」
「それじゃ、可愛い後輩は大人しく先輩の言う事聞いておきます」
「…は、だ、誰も可愛いなんて言ってねぇだろうがよ」
「今更照れないでくださいよ〜…っと、ご馳走様でした!」
「人の話聞けや」
「先輩、ちゃんと"ご馳走様でした"しましたか?してないなら、もう一回座ってください。ほら、ちゃんと"ご馳走様でした"しましょう!」

さっきまで俯いてたクセに、ほらほら!と一人騒ぎだした。
少し前のしおらしい態度はどうなったよ、めちゃくちゃ元気じゃねぇか喧しいな!
こうなったら誰がなんと言おうと何も聞かないのは経験済み。
怖いもん知らず過ぎるだろ…そして机を叩くんじゃない。

「わぁった!わぁーったから机を叩くな!ったくよぉ…」
「はいっそれじゃ、ご馳走様でした!」
「…ごちそーさまでした」

再び手を合わせる。
目の前には何が嬉しいのやら、にこにこしてる古市。

「…はよ準備しろ、バカ」
「はいっ神崎先輩!」

ジャケットを羽織り、車の鍵を引っ掴むとそのまま玄関に向かった。

…これだから、後輩って奴は。


※追記にて補足。
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RKRN nkzik 夢

…ー運命とか、必然とか、奇跡とか
物語の中の事だと思ってたー…



夏休みの図書室はいつも以上に静かだ。
部活に入ってる生徒と数人の教師しか居ないという事もあり、午前中には図書委員の仕事が終わる。
後輩を先に帰らせ、後は戸締りして鍵を職員室に返しに行くだけ。

「…失礼します」

職員室に入り、顧問である松千代万先生を探すが姿が見えない。
今の時間だと、大体国語準備室だろうか…少し遠いが一応報告だけはしに行こう。
職員室を出る時だった。

「…中在家長次!ちょっとこっち来てくれ!」
「…??」

書類やテキストが山積みされた向こう側からひらひらと手招きする数学教師。
一体何の用があるのだろうか。

「大木雅之助先生、何でしょうか?」

面倒な事押し付けられないといいが。
近付くと先生の陰に隠れて見えなかったが、小柄な女子生徒が居た。
この制服は、確か…

「図書室はあと一週間ほど開いてるよな?頼む!その一週間だけでいいから、コイツに数学を教えてやって欲しい!」
「はあ!?私ちゃんと数学出来てますよ!…そりゃあちょーっとだけ成績は良くないケド…たしひきかけわり全部出来る!」
「それだけ出来ても意味ねぇんだよ!!ホントに高校生か!?」
「高校生ですよ!!見て分からんか、らっきょ先生!!」
「見て分からんから言ってんだよ!!らっきょ先生ってちょっといいな!」

やいやいと大きな声で騒ぐ二人。
まるで子どもの様な言い争いが始まってしまった。
まず、たしひきかけわりは四則計算の事で間違い無いだろうか。
そして、話の内容が数学かららっきょにすり替わってるの分かってますか?大木先生。
こうなったら止むのを待つしかない。二人のやり取りをぼんやりと見つめてると、視線に気付いた先生が態とらしく咳き込んだ。

「…とにっかくだ!このままじゃセンター試験どころか定期試験も危うい!!どんなバカな子でも生徒は生徒。なんとかしてやらんといかん…そこで、中在家!お前にこのバカの勉強を見て欲しいって事なんだが」
「可愛い生徒に向かってバカとはなんですか、バカとは!!えーっと、なかざいけくん?ごめんね、先生の言う事は気にしないで」
「…だったら、後は立花仙蔵か潮江文次郎に頼むしかないぞ?いいんだな?」
「それは絶対ヤダ!!センセイは私が可愛くないの!?」

どちらも譲る気は無いのだろう。
平行線を辿る会話は依然として終わりが見えない。
早く帰りたいが、黙って帰る訳には行かないので最終手段を取る事にする。

「…いいですよ。勉強、みます」

そう言った途端、二人の言い争いがピタリと止んだ。
小平太の相手をする事を考えたら幾分マシだろうし、高が一週間くらいならと無理矢理自分を納得させる。
先生は手を握りながら、ありがとう!と何度も頭を下げた。
そして、

「私の所為で迷惑かけちゃって…ごめんね、なかざいけくん」
「いや、大丈夫。人に教えるのは、自分の復習にもなるから」
「…かたきうちでもするの?」
「????」

何やら意味の分からない言葉が返ってきたが、まあいい。



とにかく、明日からの一週間退屈しないで済みそうだ。



※追記にて補足。
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