ひとひらの命


10月8日 12:12 :沖斎
境目は見えない(沖斎)





宵闇に、提灯の明かりがぼんやりと浮かんでいる
祭囃子は子供心も大人心も引き付けて、祭の輪の中に誘っていく
そんな様子を僕らは並んで眺めていた
浴衣姿ではあるけれど、腰には刀という格好で

「無粋だよねぇ…」

「…帯刀する事に対してならば、あんたらしくも無い言葉だな」

一君はちらりと僕を見て、刀に手を添えた
斬りたがりだと遠回しに言われているような気もしたけど僕は曖昧に笑ってみる

「僕だってお祭りの日くらい、純粋に楽しみたいよ」

「純粋に…か。何も起こらないに越した事はないがな…」

静かに瞳を伏せた君
そういった些細なそれに君の優しさが滲む気がした
君は誰よりも刀で、それでいて武士で
(あぁ、別に僕は楽しいお祭りの日に誰が斬られようが、僕が誰を斬ろうがそんなことはどうでもいいと思ってるんだけどね)

「うん、君との時間を邪魔されたくないし」

僕は敢えてそう言った
この時はそれが一番の本心だったから
それは闇夜が誘うこの独特の雰囲気に飲まれていたからなのかもしれない

「捕物が始まれば真っ先に駆けていきそうな目をして良く言うな」

一君は緩やかに口角を持ち上げた
その微かな表情の変化に、とても喉が渇く心地がする
君という闇がゆっくりと僕を包み込むような感覚

「君だってそうでしょう?お呼びが掛かるまでは…ね」

そっと繋いだ手を振り払われることは無かった
それは今だけ君が僕のものであるという小さな肯定
ちらちらと提灯の中で燻る火と同じもどかしさのまま、僕は握る手に力を込めた
祭囃子が、今は少し遠くに聞こえるような気さえする
楽しいお祭りのその奥に、いっそ隠れてしまおうか










夏祭りのつもりが秋祭りになってしまいました。


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