ひとひらの命


8月7日 23:30 :現代パロ
7月7日・雨(沖斎)






曇天の今日に君は、星を見ようだなんて言い出した。
一君に連れ出されるままたどり着いたのはプラネタリウム。
確かに此処なら天気なんて関係ない。
並んで席に着いて暫くすると、案内が流れてドーム状の空に夜が訪れた。
君は結構なロマンチストなんじゃないかな。
真っ直ぐに作り物の空を見上げる横顔を盗み見た。
次第に輝き始める一等星。
それから段々と輝きの違う星たちが夜空を埋め尽くしていく。
プラネタリウムの椅子って、いい座り心地だなぁなんて考えていたらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
気付いた、というか痛みで起こされた。
僕の指先に噛み付いてきたのはどう考えても一君だろう。
(もしそうじゃなかったとしたら、間違いなくトラウマになる)

「起きろ…」

次いで僕だけに聞こえるボリュームで耳元に注がれる声が僕を咎める。

「んん…ごめん、つい」

寝ぼけた頭に聞こえて来たのは一昔前のJ-POPだった。
思わず夏だなぁと感じてしまう軽快なリズムに、これがお姉さんの説明する星座の逸話とかならもう少し真剣に聞いていたかもしれないと言い訳をする。
とにかく、この薄暗さとこの椅子とBGMは眠りを誘うには絶好の黄金比なのだ。
目を擦りながら目線を送ると、一君はまだ僕の指をかじっていた。

「君は暗闇なら何処でも僕のことを噛んじゃうようないけない子だったかなぁ…?」

囁き声はBGMに溶けてしまったけれど、君の耳くらいには届いただろう。

「安心しろ、ちゃんと自重している」

君もまた、僕にしか聞こえないボリュームでそう言った。
この場所が暗闇で、尚且つ他のお客さんから離れた席で良かったと心底思う。
そうじゃなきゃ僕のこの動揺が君以外にも伝わってしまうところだった。

「はぁ、夏は開放的になるのかなぁ…」

呆れというより感嘆のため息を吐く僕に君はまるで他人事のように笑った。
君と見上げた星空は、年を重ねる毎に色を変える。
その変化が、例え些細な輝きでも堪らない。
来年もまた、と願う気持ちだけそのままに何度でも新しい君を見付けて行こう。
引き裂く隙さえ見せないように。
人工の空を流れる星にも願いを込めて。










タイトル通り七夕に上げたかったんですが間に合わ無かったので旧暦に。
一ヶ月で全然違う気候になってしまってわたしはかなしい。


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