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ひとひらの命
12月31日 23:39 :沖斎
師走の三十一日(沖斎)
「一君、布団くっつけるね」
それは問い掛けではなく、一応の確認という調子だった。
文机へ向かう俺の背後の気配で布団を敷いているという事は分かってはいたが、その言葉を聞いて思わず俺は振り返る。
「…何故」
「寒いからね」
即答した総司に、俺は溜息を吐く。見れば既に布団は隙間無く並べられていた。
「それと布団を付ける事と何が関係あるのだ?」
「いいじゃない。どうせいつも僕が一君の布団にお邪魔するのは変わらないんだし…」
総司の悪びれず掛け布団を直す様子に俺は数回、瞬きをする。
「……は?」
「なんだか、一度自分の布団を出て…ってのが寒いなぁと思ってたんだよね。こうして布団をくっつけちゃえば、寒くないじゃない?」
満足そうに布団を叩いて、総司は寝巻に着替え始めた。
「あんたは毎日そういう事ばかり考えているのか…?」
「どうだろうね。あ、一君が来てくれてもいいんだけど?」
にやりと口角を持ち上げて総司は笑う。
俺よりもこうした問答に関してはこの男の方が長けている。
反論してもまた追撃がありそうだ。
そして言い争う必要があるかと言えばそこまで納得がいかないという訳でもない。
「…勝手にしろ」
「はーい。ふふ、早く君もおいでよ」
楽しげに声を弾ませる総司を再び振り返れば、己はもうしっかりと布団に包まっていた。
「…真面目なのもいいけどさぁ、年の瀬くらいゆっくりしなよ」
「年の瀬だからこそ……とはいえ、あんたの声を聞いていると気が逸れるな」
わざと眉を潜める俺に総司は眉を下げて見せる。
「それはどうも……ね、一緒に寝よう?一君」
「……少し、待て」
総司の甘い声と瞳には絶大な効果があった。
別の意味では、俺も甘いのだが。
瞳で念を押すと総司は大人しく待っていた。
だが寝巻に着替える間の視線は、やはり多少煩かった。
「一君」
着替えが終わり布団の端に膝を折ると、待ち兼ねたとばかりに腕を取られる。
「総司…」
「愛してる」
突然の言葉に俺は思わず目を見開いた。真摯な瞳が真っ直ぐに俺を見詰めている。
「また目が覚めたらもう一度言うね。明日は、大切な日だから…」
翡翠色の瞳が穏やかに笑みを浮かべる。触れ合った部分からどこまでも温かい思いで溢れていく様だった。
「…あぁ、頼む」
俺も釣られて瞳の力を緩める。
そして総司の腕の中へゆっくりと身を委ねた。
二人分の体温が心地好く布団を温め、この冬の寒さが一時うららかな春に変わる。
愛しさという贈物がまた、目覚めればこの胸に届くのだ。
来年もまた幸せな沖斎とたくさん出会えますように!
一君フライングおめでとう!
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